もちろん、そうと決めただけで航空宇宙の仕事が入ってくるわけではない。だが決めたからにはやるしかないと、部品も作っていない状態でまず航空宇宙関連の展示会に出展した。社内の生産ラインの見直しや設備投資、小ロット対応などにも取り組んだ。航空機の部品でミスがあれば、人が大勢死んでしまう。そのため、部品1個1個の製作に対する感覚を変える必要があった。そして本格的に航空機の売り上げが出る前に、航空宇宙に関する品質マネジメント「JIS Q 9100」を取得した。
最初は何カ月もお金にならない試作品を作ったりしていた。そんな中から信頼を得ていき、旅客機の部品を作るようになった。今は日本で開発中の旅客機を含め、世界中で飛ぶ旅客機に由紀精密の部品が使われている。航空機エンジンメーカーの認証を得るなど、由紀精密が積み上げたものが形になってきて、最高品質のものを作れるようになったという自信が出てきた。そんな中取り組むことになったのが宇宙分野だ。
初めて本格的に宇宙向け部品を作ったのは、アクセルスペースの超小型人工衛星だ。これは四方30cm弱、約10kgの衛星で、ウェザーニューズが北極海域の氷の状況をモニタリングするために作られた。これを受注したきっかけは、インターネットからの問い合わせだった。図面と共に、その見積もりの依頼が送られてきた。アクセルスペースについて調べると、これから人工衛星を打ち上げようとしているベンチャー企業だった。これは何としても、モノにしたいと取り組んだ。
この仕事を成功させた後は、衛星業界で口コミで由紀精密の取り組みが伝わり、多くの人工衛星を作ることになった。小型衛星に取り組むのは大学発ベンチャー企業が多く、衛星の知識はとても豊富に持っている。一方、由紀精密は精密加工が得意だ。安く作りたい、精度を出したいといった面で同社の精密加工技術をベースにアドバイスができる。そのため設計の段階から協力しながら衛星を作っている。
よく人工衛星は単発なこともあり、もうからないといわれる。また「宇宙を飛ぶ衛星だからやりたい」と採算度外視で取り組むところもある。だが由紀精密では継続的に人工衛星に取り組んでいるだけに採算が取れる構造になっているという。大手がからむと下請け構造ができ、顧客からすれば値段が上がってしまうが、由紀精密では直接取引をしているため、自分たちにとっては採算が取れ、顧客にとっては安い仕組みが保たれているということだ。
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