連載「必要とされるモノづくりの追求」では、研究開発と実際の現場/ユーザーとの間に生じるギャップを整理しながら、技術の価値をどこに置くべきかを問い直し、必要とされるモノづくりの在り方を考察する。第1回は、「最新の優れた技術」がなぜ現場で使われないのかをテーマに、その背景を筆者の経験を通して掘り下げる。
人を支えるかっこいいロボットを作りたい――。
私はこの思いから、研究開発の世界に入りました。学生時代、医療福祉ロボットの最先端を走る研究室に所属し、必死に最新の研究や医療福祉について勉強していました。展示会にも何度も参加し、装着型ロボットやリハビリロボットも体験しました。滑らかに動くロボット、かっこいい外観、動きがアシストされる感覚――。見るもの全てが完璧で、「未来はこんなロボットが街中にあふれるのか」と感動したのを覚えています。特にパワーアシストロボットを初めて装着し、モーターの力で身体が勝手に動かされるあの体験は、今でも鮮明に記憶に残っています。私もこんなかっこいいロボットを作りたいと強く思いました。そして、病気やリハビリで困っている人たちを助けるロボットを作るのだと考えるようになりました。
さまざまな論文や記事、医学書や解剖学書を勉強する中で、新しいアイデアも次々と生まれました。
「この病気のリハビリはまだロボット化されていない。これをロボット化できれば、理学療法士の負担も減るし、患者さんも日常生活を送りながらリハビリができる。よし、こんなアシストロボットを作ろう!」と意気込み、私は覚えたてのCADで簡単なイラストを作り、研究用のスライドを作成しました。
そんな時、運良く病院を訪問する機会を得て、実際に現場で働く方と話をすることができました。意気揚々とプレゼンテーションソフトを使って考案したリハビリロボットの説明をすると、こう言われました。
「これは使えないね」
正直、「え?」という感じでした。確かに機構の作り込みはまだ甘く、製品化できるような外観とはお世辞にも言えない見た目でした。しかし、対象とする疾患やロボットの機能、期待される効果についてはしっかり作り込んだつもりでした。
でも、現実には、
「対象疾患は分かったが、どのグレード(症状の程度)なのか?」
「この疾患は多くの場合、別の○○の症状も有しているが、どうするのか?」
「あなただったら、これを普段から装着して生活したいと思うか?」
といった質問に、私は何も答えられませんでした。
そこで初めて気付きました。私の考えたアイデアには、現実的な「治療の視点」が抜けていたのです。さらに、研究開発者として最も重要な「使用者の視点」も十分に考えられていませんでした。私は医学を勉強した気になっていただけだったのです――。
そもそも患者さんは治療を受けるために病院へ行きます。病院に行かなければ日常生活を快適に過ごすことが困難だからです。身体的、精神的な不調や症状を改善するために、患者さん自身が治療やリハビリを「選択」しているのです。
医療従事者は、さまざまな症状を抱える患者さんに対し、それぞれに合った治療やリハビリを行います。患者さんの症状は一人一人異なります。さらに、同じ疾患であっても症状にはグレード(症状の程度)があり、困っている場面も人によって異なります。
一方で私は、安易にも疾患を一くくりにし、その中の一つの症状しか見ていませんでした。医学書で覚えたわずかな知識を解決すれば病気は治ると、思い込んでいたのです。さらに作りたいロボットのことばかりを考え、実際に使用する患者さんの視点が抜け落ちていました。
こんな経験もありました。
それ以降、患者さんが具体的に困っている症状についても勉強し、医療関係者の方からも必死に学ばせていただきました。歩行を改善するロボットを開発し、実際の患者さんに使用していただいた時のことでした。
「確かに楽になった気がする」と患者さんからの評価をいただきました。
この言葉を聞いて、ほっとしました。私の開発したロボットに実際の効果がありそうだと分かったからです。しかし、その直後にこう言われました。
「でも、これをつけて外は歩けんね。重いし、見た目もちょっとね」
その言葉は決して否定的なものではありませんでした。ロボットを批判しているわけでも、不満を述べているわけでもありません。ただ、日常の中でふと浮かぶ自然な感覚として語られたものでした。
本当にその通りだと思いました。
効果があっても使われない――。その現実を前にして、モノづくりの難しさをあらためて痛感しました。
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