連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを取り上げ、その解決アプローチを解説する。連載第15回は、ソフトウェア設計者が現場で混乱してしまう機械設計者からの要望【安全対策編】の後編をお届けする。
本連載は、前回シリーズ「いまさら聞けない 製品設計と設備設計の違い」をイントロダクションと位置付け、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説していきます。
前回に引き続き、ソフトウェア(以下、ソフト)設計者が現場で混乱してしまう機械設計者からの要望【安全対策編】をテーマに、安全仕様が現場運用の中で形骸化してしまうケースや、ソフト設計者が直面する課題について取り上げていきます。
ある日、以前いただいた案件の引き合いで、某メーカーの生産技術の方から「既存の設備に安全装置を追加したいのですが、ソフトの改造で対応できませんか?」という依頼を受けました。
内容としては、設備が稼働している最中に現場作業者が機械の動作範囲へ侵入したことを検知した場合、安全のために動力を遮断してほしいというものです。
経緯を伺うと、現場では半自動機を中心とした生産方式を採用しているとのことですが、十分な安全装置の導入はこれまで行われていなかったとのことでした。
おそらく数年前から「本当はやらなければならない」と思いながらも、たまたま年内予算に少し余裕ができたため、「この機会に引き合いを出してみよう」となったのだろうと推察しています(こうした話はしばしば耳にしますからね)。
ただ、お客さまから詳しく話を伺うと、事情は少し違っていました。
実は、単に動力を遮断させたいわけではないんです。通常運転をする中で、しばしば作業者が間近(手で機械に触れられるレベル)で機械を動かしながら確認するような作業が発生します。その場合には例外的に動力を遮断しないようにしたいんです。例えば、タッチパネルに画面を作ってもらい、安全装置をミューティング(機能を一時的に無効化)し、動作確認をしながら作業する際には、現場作業者にモード切り替えをしてもらうようにすれば実現できると思うのですが……。
というご要望でした。
結論から言うと、筆者はベンダーの立場でありながら、この要求仕様には反対しました。
冷静に考えてみましょう。とどのつまり、お客さまの要望は「安全装置の機能が有効でも無効でも、生産設備を通常通り動かせるようにしてほしい」という内容なのです。さらに、現場作業者の方々はこれまで安全装置をほとんど運用していない環境で仕事をしていました。そのため、安全作業に対する意識はそれほど高くないと考えられます。
そうなると、安全装置を導入したとしても、遅かれ早かれ「いちいち切り替えるのは面倒だから、常時安全装置を無効にして運用しよう」という状況になることは十分考えられます。
もちろん、「作業者の安全を守ること」は非常に重要です。しかし現場の立場からすると、次のような側面もあります。
安全装置そのものの議論はこれ以上控えますが、ここで言いたいのは、「そうした状況でも、現場作業者の方々は今まで通りQCD(品質/コスト/納期)を維持しながら仕事をすることが求められている」という点です。
設計者や生産技術の方は、生産設備を導入するプロではありますが、その設備を実際に使うユーザーではありません。現場作業者(オペレーター)の目線が抜けた装置を作ってしまうと、いつの間にか運用が形骸化してしまいます。
人によっては「現場の管理者だけが知っているパスワードを入力しないと、安全装置をミューティングした状態で稼働できないようにすればよいのでは?」と言われる方もいます。確かに、一見するとよいアイデアのようにも思えます。しかし実際の運用を考えると、
といった懸念は払拭(ふっしょく)できません。
一般的にこのような場合、ミューティング時には設備の動作や機能を制限します。しかし今回の場合、お客さま自身もうまく制限内容を定義できていません。よく「例外的に……」と言われる方がいますが、その例外とは具体的にどのような状況なのでしょうか。ここが曖昧なままでは、安全対策そのものが運用頼みになってしまいます。
「JIS Z 8051」では、安全対策について次のような記載があります。
本質的安全設計方策、ガードまたは付加的な保護方策を的確に実施せずに、使用上の情報を提供するだけで済ませてはならない。
※JIS Z 8051より
機械の仕様は「その場しのぎ」ではなく、「現場作業者が本当にスムーズに運用できるか」という視点をしっかり持って定義すべきです。
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