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» 2012年12月17日 10時30分 公開

ベトナムは「チャイナプラスワン戦略」の選択肢なのか知っておきたいASEAN事情(11)(2/2 ページ)

[栗田 巧/DATA COLLECTION SYSTEMS,MONOist]
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 これまでの行き過ぎた一極集中を軽減するためのチャイナ・プラスワン戦略――ここでも日系企業特有の判断や行動指針がうかがえます。一言で言えばリスクマネジメントの欠如です。サプライチェーンを構成する企業の選択肢が限られるという側面も影響しているのでしょう、「みんなで中国」の次は、「みんなでタイ」「みんなでベトナム」という横並びの行動が見受けられます。

 それぞれの国には固有の環境や特性、カントリーリスクが存在します。本来、自社の事業特性に適すると判断した国や地域をリストアップし、それぞれの長所と短所を総合的に分析した上で、最終的な進出国・地域を選ばなければならないはずです。しかし、日系企業の場合、こうした一連のプロセスが欠如している、もしくは十分でないケースが多いのではないでしょうか。海外進出をされた日系企業の方とお話しすると、「こんなはずじゃなかった」というコメントを良くお聞きします。

ベトナムは進出適地なのか

 では、ここからベトナムを考察していきましょう(図3)。

図3 ベトナムと周辺国 ベトナムの面積は33万平方kmと、日本の9割弱。北に中国、西にラオス、カンボジアと国境を接する。南部の主要都市ホーチミンは人口500万人を超える。首都ハノイは北部の中心地(人口300万人)である。特産物は世界第2位のコーヒー豆や世界第5位の米、天然ゴム。

 ベトナムの人口は約9000万人(世界第13位、2012年7月の推定値)です。都市部に30%、地方に70%と人口の分布は他の東南アジアと同じような配分なのですが、ベトナム特有の特徴もあります。10〜20代の人口比率が高いのです(図4)。65歳以上は総人口の7%しかいません。一定の年代以上の人口が極端に少ないのはベトナム戦争の影響なのですが、現時点ではこの少し不自然な人口ピラミッドが、ベトナム国内市場の将来性として高く評価されています。

図4 ベトナムの年齢別人口 男性(左)と女性(右)の値を示した(単位:100万人)。10代、20代が極端に多く、65歳以上が急減する構造を見て取れる。出典:United States Census Bureau

 製造業が海外進出する際の最も一般的な理由は、廉価な労働力の確保であることは間違いありません。加えて、進出国、さらには地域の市場規模も重要な要因となっています。この点、ベトナムは非常に魅力的な「進出候補地」です。

 製造業の平均年間給与は、ワーカー1667米ドル、エンジニア4528米ドル、マネージャー1万2817米ドル*1)と、他の東南アジア諸国や、中国の華南、華東に比べ、まだ低い水準にとどまっています。しかし、ベトナムの賃金上昇率は15%を超える水準で推移しており、廉価な労働力という「価格優位性」は年々弱まっています。ちなみに最低賃金法の改正は、タイ、マレーシアを始め東南アジア各国で実施されています。これまでのような人件費だけを見た海外生産シフトは、アジア地域では通用しなくなっていると言えましょう。

*1) 日本貿易振興機構(JETRO)調べ(2010年)

 このところ、ベトナム政府の打ち出したインフレ対策が効き過ぎたのか、国内消費が停滞しています。しかし、ベトナムの年齢別人口特性からすれば、今後も高度成長が見込める市場であることは間違いありません。

 ベトナム国内経済の成長は、間違いなく所得と物価の上昇を招きます。その結果、国内経済の成長を引っ張ってきた外国からの投資が減少すると、全ての成長シナリオが崩れてしまいます。こうした課題はベトナムだけでなく、成長を続ける東南アジア各国の抱える最大のカントリーリスクと言えましょう。

 今回のホーチミン出張では、ホーチミン市郊外のAmata工業団地を訪問しました(図5図6)。ベトナムのAmata工業団地には多くの日系企業が進出しており、ベトナム南部では最も大きな工業団地です。なお、Amataはタイ資本のデベロッパーです。タイ本国ではバンコク東部のAmata Nakornや、Amata Cityを開発、運営しています。

図5 Amata工業団地入り口
図6 工業団地内部

 渋滞するホーチミン市を抜け、国道1号線を通って約60分。Amata工業団地のゲートを抜けると、敷地内はきれいに整備され、ベトナムにいることを忘れてします。しかし、Amata工業団地までの幹線道路である国道1号線、ブンタオ港への国道51号線はトラックがひしめき、至る所で道路補修工事が進んでいます。

 道路や港湾、電力、通信などの社会インフラの整備がベトナムの抱える課題かもしれません。ベトナム政府はインフラ整備にそれなりの予算を付けるようになっており、4〜5年前に比べて雲泥の差と言ってよいほど改善されているのですが、それでも製造業を中心とした外国からの投資ペースについて行けていないように見受けられます。このペースで外国からの投資が続くと、この先どうなってしまうのか不安が残ります。

言葉に困るベトナム

 最後にベトナム語の話題を1つ。今回のセミナーでは、ベトナム駐在の方々とお話をする機会があったのですが、その中でベトナム語が話題になりました。

 英語が日常語ではない国に在住する際、必ず求められるのが現地語の勉強です。外国語の勉強は日本人にとって、それだけでかなりハードルの高いことなのですが、もしかすると、ベトナムのハードルが世界一かもしれません。中国でもタイでも日本人を悩ませるのが声調*2)です。中国語には4声があり、タイ語は5声ですが、ベトナム語には6声もあります。声調の無い言語を母国語とする日本人にとって、6声を使い分けて発音するのは不可能に近い行為です。せっかくベトナム語を勉強したけれど、ベトナム人は全く理解してくれないというのが、一般的な日本人の話すベトナム語のようです。努力しても、コミュニケーションのツールにならなければ、言葉を学ぶモチベーションは上がりませんね。

*2) 1音節内の音の高低を声調と呼ぶ。仮にローマ字で表すと同一になる語でも、声調の違いによって違う語となる。

 次回も引き続きチャイナ・プラスワン戦略の考察を続けます。プラスワンの候補国として脚光を浴びるタイを再度取り上げる予定です。


【修正履歴】 記事公開時のタイトル、ベトナムは中国の「代わり」になるのか、を筆者からの申し入れにより、ベトナムは「チャイナプラスワン戦略」の選択肢なのか、へ変更いたしました。


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筆者紹介

(株)DATA COLLECTION SYSTEMS代表取締役 栗田 巧(くりた たくみ)

1995年 Data Collection Systems (Malaysia) Sdn Bhd設立

2003年 Data Collection Systems Thailand) Co., Ltd.設立

2006年 Data Collection Systems (China)設立

2010年 Asprova Asia Sdn Bhd設立- アスプローバ(株)との合弁会社

1992年より2008年までの16年間マレーシア在住


海外の現地法人は? アジアの市場の動向は?:「海外生産」コーナー

独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。



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