日系企業の進出ラッシュに沸くインドネシア。製造業をはじめとする多くの国が新たな拠点設立などを進めているが成功のカギはどこにあるのだろうか。キーワードとして浮上するのが「ハラールビジネス」だ。ASEAN事情に詳しい筆者が解説する。
製造業にとって役立つASEANの現状を紹介してきた連載「知っておきたいASEAN事情」ですが、今回と次回にわたり、再びインドネシアについて取り上げます。
インドネシアについては、第4回「“東南アジアの大国”インドネシア国内市場の成長は本物?」、第13回「チャイナプラスワン戦略におけるインドネシアとマレーシアの『チャンスとリスク』」など、過去に2回紹介してきましたが、インドネシアを取り巻く環境はその頃から比べてもさらに加速度的に成長が進んでいます。今回はインドネシアビジネスにおいて1つのキーワードとなる「ハラールビジネス」について紹介したいと思います。
少し前の数字となりますが、2012年のJETRO統計では、インドネシアへの日系企業進出数は1255社、在留邦人数は1万4720人だとされています(日系企業数に関しては、日系企業の定義によって数字が変わる場合があります)。2012年以降も続いているインドネシア進出ブームを考えると、日系企業数、在留邦人数ともに現在はさらに増えていることが推測できます。
今回のコラムでは少し視点を変えて、“世界最大のイスラム教国”としてのインドネシアを考察します。
イスラム教と言うと、中近東の宗教というイメージが強いですが、実際のイスラム教徒の人口を見てみると、上位4位までを南アジアおよび東南アジアの国々が占めています。この中で、2億人を越えるイスラム教徒の人口を抱えているのがインドネシアです。インドネシアは他民族国家で、大多数を占めるマレー系住民を中心に全人口の9割ほどがイスラム教徒と推測されます。
世界のイスラム人口(2009年)(出典:Pew Research Center)
日本では接する機会の少ないイスラム教ですが、実はキリスト教に次いで、世界で2番目の信者数を持つ宗教です。諸説ありますが、全世界のイスラム教徒数は16億人ともいわれています。このことから考えると、イスラム教徒の8人に1人がインドネシア人ということになります。
イスラム法では、合法なものを「ハラール」、非合法なものを「ハラム」(もしくは「ノン・ハラール」)と言います。代表的な規制対象は豚肉を使用した食品です。ただ実際は、食品や飲料だけではなく、化粧品などの製品群にも及びます。少量でもアルコールが含有する製品は全てハラムとなります。
筆者のマレーシア在住時代(マレーシアは人口の60%超がイスラム教徒です)、ハラールの概念は身近なものでした。例えば、ホテル内のレストランなど、イスラム教徒が来店する可能性がある飲食店では、原則的にイスラム法で禁じられている豚肉料理は提供されません。朝食ブッフェには、ポークではなく、チキンソーセージやビーフベーコンが並びます。まれに豚肉料理を出すレストランがあるのですが、その場合、ホテル内の他のレストランと調理場、洗い場を分け、マレー人以外の従業員を雇用する必要があります。
また、市内のスーパーマーケットには豚肉売り場がありますが、支払いは豚肉売り場で行います。一般のレジには、マレー人従業員が勤務しているためです。イスラム教徒であるマレー人は、パックされていても豚肉を触ることを忌み嫌います。最近はクアラルンプール市内に幾つかの専門店がありますが、1990年代、おいしいトンカツを食べようと思ったら、シンガポールまで行かなければなりませんでした。
非イスラム教徒にとってはちょっと厄介なハラールとハラムですが、イスラム教徒にとっては、日々の生活そのものであり、宗教上とても重要なものです。そして、イスラム教徒の生活指針となっているのがハラール認証です。
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