日系企業の進出ラッシュに沸くインドネシア。しかし、インドネシアにも数多くのカントリーリスクが潜む。インドネシア進出企業が気を付けるべき3つのリスクとは? ASEAN事情に詳しい筆者が解説する。
製造業にとって役立つASEANの現状を紹介してきた連載「知っておきたいASEAN事情」ですが、前回に続き、再びインドネシアについて取り上げます。前回の「日系企業進出ラッシュに沸くインドネシア、ポイントは『ハラールビジネス』」では、インドネシアビジネスの1つのキーワードとなっている「ハラールビジネス」について解説しました。今回は、躍進するインドネシア市場に潜むカントリーリスクについて紹介します。
イスラム教国であるインドネシアでは、2014年6月28日より断食月であるラマダンが始まりました。1カ月後となる同年7月28日がイスラム暦の新年にあたるハリラヤプアサです。正式には直前に月の満ち欠けを見て“ラマダン明け”が決まるのですが、ここ数十年“ラマダン明け”がずれたことはないはずです。ちなみにイスラム暦の1年は354日です。現在世界各国で用いられるグレゴリオ暦の365日より年間11日間少ないため、ハリラヤプアサの時期は毎年少しずつ前にずれます。2014年は7月28日ですが、2015年は7月17日からとなります。
ラマダン期間中、イスラム教徒は日中(日の出〜日の入り)まで食べ物や飲み物の摂取が禁じられます。そのため、日の出前に朝食を済まし、普段より1〜2時間早く仕事場に向かいます。また、同じように早めに退社し、日の入りと同時に夕食を始めます。イスラム教徒にとっては大変な1カ月間なのですが、非イスラム教徒にとっては、交通渋滞が緩和される快適な1カ月です。普段であれば、大渋滞となる夕方のラッシュの時間帯は、イスラム教徒は自宅かレストランで食事を前にしてブカプアサ(食事開始)の合図を待っている時刻です。ですから、通常の会社帰りの道路は驚くほど空いていることになります。
ここ数年、インドネシアの首都であるジャカルタ市内、および周辺の幹線道路の混み方は尋常ではありません。もともと道路面積が限られている上に、ロータリーと呼ばれる道路システムがさらなる渋滞の原因となっています。交通量が少ない時には、ロータリーは非常に効率的ですが、一定の交通量を超えると、ボトルネックになってしまいます。本来は、高架道路を建設して立体交差にしてもおかしくないほどの交通量であるジャカルタ市内の幹線道路にも、この旧態依然としたロータリーが残っています。
一昔前はタイのバンコクの交通渋滞が悪名を轟かせていましたが、今はジャカルタが東南アジアでワースト1でしょう。例えば、ジャカルタ近郊の工業団地を訪問すると、往復5〜6時間、ずっと渋滞の車中にいることは一般的な現象です。インドネシア政府が無為無策であったわけではありませんが、自動車の普及率を見誤り、一般道路の拡張、高速道路建築といった道路インフラ整備が後手になっていることは否めません。
また、同様に、通信環境、電気供給にも問題を抱えています。現在、インドネシアの携帯電話端末の契約数は2.5億台を超えています。2013年のFacebook登録者数は、アメリカ、ブラジル、インドに次ぐ世界4位です。インドネシアの一般的なFacebookユーザーはPCではなく携帯電話端末を使用しています。こうした市場特性を踏まえ、高速携帯通信サービスはそれなりに発達している一方、固定データ回線の整備はかなり遅れています。固定データ回線でそれなりの通信速度を求めると、高額のコストが発生します。また、回線が安定していないため、ビジネス上のライフラインとして使用する場合、異なる通信会社2社と契約することもあります。A社の回線が落ちたらB社の回線に切り替えるという方法です。
また、国内経済成長、工業団地の拡大などにより、ジャカルタが位置するジャワ島の電気需要は毎年8〜10%増加しているといわれています。しかし、電源開発、ならびに配送電網の整備遅れは、インドネシアの潜在的な問題といえます。特に、これから開発される工業団地では、十分な電力供給が確保されるのか注意が必要かもしれません。
インドネシアにとって、インフラの整備遅れは安定的にビジネスを展開する上での最大の問題点です。速やかな解決策が講じられない限り、脆弱なインフラは経済活動の生産性を低下させ、間違いなく経済発展の大きな阻害要因になるはずです。
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