実はASEANの動向は中国と密接にリンクしている!? 今回は中国とASEANの密接な関係をいくつかの具体的な事例を含めて紹介する。
製造業にとって役立つASEANの現状を紹介してきた連載「知っておきたいASEAN事情」ですが、前々回から切り口を変えて、ASEANと切っても切れない関係である中国の現状についてお伝えしています。
今回は引き続き、日本ではなかなか認識されていないASEANと中国の密接な関係を、いくつかの具体的な事例を基に説明していきます。
2015年2月4日に筆者の企業では、上海市で「5〜10年後の中国事業に求められる企業戦略とは?」と題したセミナーを開催しました。セミナー後のアンケート結果では、ASEANと中国の事業環境の類似点と相違点、また、中国企業のASEAN進出と言った内容に興味が示す参加者が多かったことが印象的です。中国とASEANは別々の異なる市場ではなく、相互に補完関係にある一大市場と言うのが共通認識になりつつある様に感じました。
一方、2015年2月8〜10日にタイの現首相 プラユット・チャンオチャ氏が訪日しました。安倍晋三首相をはじめ、日本の財界要人と会談を行い、タイにとっては有意義な日本訪問であったようです。2014年5月のクーデターによる軍事政権設立時には、アメリカに追従し、プラユット政権に強い懸念を表明していた日本政府ですが、今回はかなりの厚遇だったのではないでしょうか(関連記事:タイ軍事クーデター下の日系製造業、影響は軽微にとどまるのか)。
その理由は、タイ政府が内需押し上げの切り札としている大規模インフラ整備8カ年計画(2015〜2022年)の内、計画予算の大部分を占める鉄道整備です。日本政府は「世界一」ともいわれる新幹線の売り込みに必死なのですが、実は一番の目玉である長距離鉄道に関しては、2014年12月に中国と事業に関する覚書を締結されています。まだ正式な契約が締結されてはいませんが、政府間レベルの覚書を破棄する可能性は極めて低く、現実論として、日本政府に残されているチャンスはかなり低いと考えるべきでしょう。その一方でチャンスがあるかのようにふるまうタイのしたたかさ、外交上手さが遺憾なく発揮されていたように感じました。
「中国鉄路高速」と呼ばれる高速鉄道は、表向き自主開発と中国政府は主張していますが、実際は日本、ドイツ、フランスなどからの技術供与で始まっています。最もポピュラーなCRH2系は川崎重工業の新幹線E2系がベースになっています。上海と蘇州間で「和階号」に乗車する機会がありました。2007年から導入された初期モデルは、内装、シートデザイン&質感、トイレ、どれをとってもメイドインジャパンそのものだったのですが、今回乗車した新型車両は、外見こそ同じですが、内装は大幅なコスト削減が施されたメイドインチャイナ仕様でした。
実は、中国の鉄道会社は営業距離のみならず、鉄道車両製造でも世界一の地位にあります。また、2014年末に、世界1位の中国北車集団と世界第2位の中国南車集団の合併が発表されました。2015年春の株主総会で承認となりますが、実現すると、現在、世界第3位のボンバルディアの3倍以上となる売上高3.7兆円の巨大企業が誕生します。
製造の大原則で言えば、生産数量の増大は製造コストの削減につながります。「それなりの品質で製造コストの低い中国企業 VS 高品質でも製造コスト世界一の日本企業」の競合は、戦う前から結果が見えているのではないでしょうか。鉄道事業において安全が最優先であることは承知の上で申しますと、今後の成長が見込める新興国の鉄道事業が求めている製品&サービスと日系企業の提案する内容にはかなりの隔たりがあるように感じています。
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