会社の将来を担うSCM人材にはどんな能力が必要で、どう育てていけばいいのか新時代のサプライチェーンマネジメント戦略(4)(1/2 ページ)

さまざまな企業課題に対応すべく、サプライチェーンマネジメント(SCM)のカバー領域や求められる機能も変化している。本連載では、経営の意思を反映したSCMを実現する大方針たる「SCM戦略」と、それを企画/推進する「SCM戦略組織」、これらを支える「SCM人材」の要件とその育成の在り方を提案する。

» 2025年01月17日 06時00分 公開

 過去の連載で、近年のサプライチェーンの課題に対応するためには、ビジネス的な効率性のみならず、サプライチェーンの途絶やサステナビリティに関わるリスクを考慮しつつ、サプライチェーンの再設計や組み替えを行っていく必要があることを述べた。そして、動的な変化が求められるSCM(サプライチェーンマネジメント)の方向性を明らかにする「SCM戦略」の再定義と、その戦略の定義〜実行を担う「SCM組織」の整備が必要であることも解説した。

 その中で、これらの組織で実務を担う「SCM人材」が重要になることにも触れた。しかしコンサルティングの現場で多くの企業から聞こえてくるのは、現在のSCMを統率し、将来のSCMの在り方を模索/構築するコア人材の育成に苦慮しているという声だ。そこで本稿ではそもそもSCM人材がどのような能力や知見を有しているべきなのか、また、そうした人材を育成するにはどのような方法があるのかについて論じたい。

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SCM人材が備えるべき要件

 組織や地域を跨いでグローバルに展開し、常に変化し続けなければならない企業の中で、サプライチェーンをマネジメントする人材には極めて幅広い知見と能力が要求される(図1)。

図1:SCM人材に要求される能力と知見 図1:SCM人材に要求される能力と知見[クリックして拡大] 出所:クニエ

 まず求められるのは事業領域全体に対する「ビジネス理解力」だ。販売/製造/調達/輸送などの機能横断的な視点はもちろん、経営理論やマーケティング知識、財務/管理会計といった知識も求められる。

 例えば、実務層の「販売会社の在庫数が増加した」という話を、経営者は「棚卸資産の増加とキャッシュフローの悪化が進んだ」と読み替えることができるだろうか。SCM人材はサプライチェーンの末端から得た数量情報を経営者が理解しやすい情報に変換し、サプライチェーンに関わる経営判断を支援しなければならない。その前提として、販売業務や会計などの必要な知識を備えていることが求められる。加えて、周知の通り、近年ではサステナビリティやサプライチェーン途絶への対策に関わる知識も得ておく必要がある。

 また、こうしたサプライチェーンに関わる意思決定の前提となる、各種データの分析力や実務を支援する「デジタル/ツール活用力」も必要だ。事実に基づいた意思決定が常識となった現代のSCM実務では、さまざまなデータを各種統計手法やAI(人工知能)などを用いて分析するノウハウが求められるようになっている。

 SCMに関連するITシステムやツールの役割/主要機能の知識も必要だろう。さらに今日では実際のサプライチェーンネットワークをデータモデル化して、動的なサプライチェーンのパフォーマンスをシミュレーションする「モデリング能力」を備えていることが望ましい。

 さらに、サプライチェーンやマネジメントの在り方を常に見直し続ける必要から、プロジェクト管理能力や業務改革に関わる知識/経験などの「プロジェクト推進力」および、それを下支えする「コミュニケーション能力」も重要である。SCMの構築/改善は多くの部門や外部パートナーと国を跨いだ連携が必須となる。そこではさまざまな立場のステークホルダーにプロジェクトの目的や狙いを端的に伝え、コミットメントを引き出す高度なコミュニケーションスキルが不可欠だ。

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