軍事クーデターにより予断を許さない状況にあるタイ。しかしタイには多くの日系製造業が進出している。タイの現地の様子はどうなっているのか。また製造業を取り巻く環境にはどういう影響があるのか。タイ駐在の藤井氏が見た現地の姿を報告する。
2014年5月22日に発生した軍事クーデターによる政変に揺れるタイ。日系製造業にとってタイはASEAN地域における中核拠点であり、政変によりビジネス基盤が揺るげば、進出企業の業績にも大きな影響を与えることになる。
現地はどのような状況で製造業にとってはどういう影響が出ているのか。また、今後進出企業はどのようなことに気を付けなければならないのか。タイに駐在するアスプローバの藤井賢一郎氏が状況をお伝えする。
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前回のリポートから時間が経過しましたが、この間にタイが置かれている政治的・経済的な環境の変化は大きなものがありました。特に2012年まで自動車優遇税制により活況に沸いていましたが、2013年はその反動で自動車関連市場は低迷しました。さらにそこに輪を掛けて、2014年の政変が起こり、タイ市場はネガティブな状況にあると見えるかもしれません。
筆者はようやくタイに赴任して1年以上がたちました。その中でタイが抱える問題点や全体像などが見えるようになってきました。そこで今回はこれらの状況を踏まえて、タイの製造業の現状を報告させていただこうと思います。
まず第一に、現在クーデターという環境下で日本の製造業にどのような影響があるかという点ですが、現時点では特に大きな影響は見られません。
現在見られる影響といえば、交通事情くらいでしょうか。筆者は顧客訪問するためにタイの高速道路をほぼ毎日のように往復していますが、昼間のトラックの交通量が増えたように感じます。タイではクーデターにより生まれた軍政権が当初午後10時〜午前5時までの間外出禁止令を出していました。現在では午前0〜4時までに短縮されていますが、多少影響はあるといえるかもしれません。
現在までのところはタイは製造業にとって、まだ安定成長を続けている状況は変わっていないように見えます。筆者の顧客企業のビジネスは活況で生産量全体も大きく増えています。そのため2014年は生産スケジューラの導入が盛んに進められています。
ただ今後どのような影響があるかについては判断ができない部分があります。タイでは今回の政変が史上19回目のクーデターということになります。このクーデターの要因でもある“貧富の差”という根本的な社会構造は解消されたわけではなりませんので、ビジネスにとって安定的な状況になるのかどうかは想定が難しいというのが実情です。特に農村地区を中心とした「赤シャツ」派※)が今後どのような行動を取るかにもよると思います。
※)農村部や貧困層から支持を受け、元首相のタクシン氏を象徴とする派閥。国民を意味する赤いシャツをシンボルとして着ている。
この状況の中、日系製造業の投資を見てみますと、新規工場やラインの増設については、タイ投資委員会(BOI)の手続きが必要となるため、遅れがちとなっています。しかし、自動車製造業をはじめとした投資意欲は衰えていないように感じています。20回目のクーデターがいつ起きてもおかしくない状況ではありますが、2015年のASEAN経済共同体(AEC)発足を視野に入れ、東南アジアの中心国としての位置付けは揺らがないと見ているのでしょう。
2014年に入って、タイ国内の自動車販売台数は前年比で25%減と大きく落ちています。しかし、もともと輸出主体のこの国では、各自動車部品メーカーの生産量は落ちていません。
問題があるとすると、タイ国内市場を中心とした完成品になります。タイ国内市場を中心としたコンシューマ製品の売れ行きと製造量には陰りがあるようで、筆者が営業を行う製品群の導入プロジェクトについても延期されるケースが多いように感じています。
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