電子情報技術産業協会は新会長に漆間啓氏(三菱電機 代表執行役 執行役社長 CEO)が就任したと発表した。任期は1年間。前会長の津賀一宏氏(パナソニック ホールディングス 取締役会長)は任期満了で退任した。
電子情報技術産業協会(JEITA)は2025年6月11日、新会長に漆間啓氏(三菱電機 代表執行役 執行役社長 CEO)が就任したと発表した。任期は1年間。前会長の津賀一宏氏(パナソニック ホールディングス 取締役会長)は任期満了で退任した。
同日に開いた会見で、新会長の漆間氏はデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性を述べた。「デジタル技術を導入するだけではない、デジタルによる真のトランスフォーメーションを社会全体で推進することが求められている。キーワードはソフトウェア開発力だ。自動車のソフトウェアデファインドビークル(SDV)と同様にあらゆる産業でソフトウェアの重要性が高まり、デジタルテクノロジーを使いこなすためのソフトウェア開発力が勝負の行方を左右する」(漆間氏)。
現場力の強さと、AI(人工知能)をはじめとするデジタル技術を組み合わせて新たな成功モデルを構築することも重要だと訴えた。スマートフォンアプリなどで進行する「デジタル赤字」(デジタル関連のサービスや商品の輸入が輸出を上回ること)と同じ道を歩まないためにも、B2BにおけるDXが最重要課題であるという。
「デジタル赤字の背景には、米国が技術的に先行し、デジタル分野が米国の牙城になっているということがある。どのようにこれに対抗していくかを考えたとき、日本はまだ製造業が非常に強い。クラウドに対するデジタル赤字への対応は難しいが、製造業を強くすることでデジタル赤字に対抗していきたい。そこで、デジタル技術やデータをマネジメントすることが重要になる」(漆間氏)
こうした環境を踏まえて、JEITAとして「製造業のソフトウェア開発力の底上げ」「サプライチェーンリスクへの対応」「AIをはじめとするテクノロジーの進化と社会の調和」の3つに取り組んでいくと漆間氏は説明した。
製造業のソフトウェア開発力の底上げでは、デジタル技術を使う企業とJEITAが連携して社会実装に取り組む。JEITA主催の「CEATEC」はDX加速の舞台として展示会の価値を高める。ソフトウェア活用の加速に向けては2025年3月に発足した「Media over IP コンソーシアム」のように、他産業やアカデミア、政策立案の専門家などから知見を得られる共創の仕組みづくりを推進する。
サプライチェーンを取り巻く経済安全保障やサイバーセキュリティ、地政学リスク、サステナビリティへの対応などの課題は各社共通だ。1社での解決が難しく、複数の企業が協力し合うことも重要だとしている。各課題に対応した組織体制を構築し、JEITAが推進役となってリソースやネットワークを活用しながら解決に取り組む。官民の連携や協調が必要なデータ連携基盤などデジタルエコシステムについてもJEITAとして対応していく。
生成AIやデータの利活用など社会的影響の大きな技術に対しては、産業界がルール形成に関与し、倫理や透明性を重視したガバナンスを構築していく必要がある。安心してデジタル技術を活用できる環境の整備に向け、JEITAは「AIポリシー」を策定して公開した。社会と調和したAIの普及を促進し、AIを積極的に利活用することで社会的価値を創出していく。
トランプ政権による関税政策は、日米で交渉が続いており方向性がまだ見えていない。関税の影響が注目されるのは自動車だが、自動車には電子部品が多数使われており、JEITAとしても日米関税交渉の行方を注目している。
「自動車の相互関税が継続すると、車載電子部品も間接的に影響を受ける。関税回避のため米国での生産を検討する企業も出てくると考えているが、米国でサプライチェーンの裾野が整っているのか、人材を確保できるのか、問題があると聞いている。こうしたデメリットが減っていくように、情報提供しながらサポートしたい」(漆間氏)
半導体への関税は「JEITAとして展開が最も気掛かりな領域」(漆間氏)だという。「関税がかかるとコストプッシュの要因になるので、関税を下げていくよう政府には協議していってもらいたい。半導体は最終製品の技術革新のキーになる存在なので、関税が日本の競争力を高めていく方向につながっていくことを望んでいる」(漆間氏)。
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