安価な生産力に加えて国内経済の成長も確かなタイ。チャイナ・プラスワン戦略の要として注目を浴びている。しかし、2013年に入って労働集約型製造業からの脱皮が明らかになるなど変化の兆しが見えてきた。
タイのバンコクで活動する盤谷(バンコク)日本商工会議所が半期ごとに実施している景気動向調査の結果が明らかになりました。2012年上半期、タイ大洪水の影響を大きく受けていた多くの日系企業が、下半期(7〜12月)にV字回復を果たしています。
その要因を見てみると、欧州経済に端を発した世界的な経済停滞、つまりタイから海外への輸出の減少を、タイの国内経済が支えた形といえます。具体的には、タイ政府が打ち出した「初めてのマイカー購入支援」「初めてのマイホーム購入支援」が一定の成果を上げました。需要の先食いと言う批判もあるようですが、大洪水と言う未曽有の自然災害直後に、こうした前向きな政策を打ち出せるのは、近年の国内経済の堅調な成長基調が前提としてあったためでしょう。
これまで海外からの投資を背景に、国内経済を成長させてきたタイ政府。今回の内需刺激策の推進は高く評価して良いと思います。正直なところ、政治経験の全く無いインラック首相の経済政策に対する国内外の評価はかなり低いものでした(関連記事)。しかし今回はこれを見事に裏切った形となったと言えます。裏では、お兄ちゃん*1)の的確なアドバイスがあったのかもしれませんが。
*1)インラック首相の兄は、2001年から2006年まで首相を務めたタクシン氏。
こうした堅調なタイ経済に向けて、日本経済の閉塞感を背景に、多くの日系企業がタイへの投資を増加させています。もう1つ見逃せない背景としては、中国リスクのヘッジ(チャイナ・プラスワン戦略)が挙げられます。以前のコラムにも書きましたが、日系企業の投資傾向として、特定の地域・国に集中することが挙げられます。タイは実力以上の評価になっているのではないかと感じます。
さて、日本からのタイ投資の内訳をみると、自動車や電機関連の製造業が主力であることは変わりません。ただ、これらの分野における大手企業は既にタイ進出を果たしており、現在の主力は中堅企業に移っています。
加えて、近年の特徴としては、非製造業の新規投資が増加しています。まあ、非製造業と言っても、その大部分が製造業者をサポートする分野です。
こうした中、投資額としては決して大きくありませんが、バンコク市内で非常に目立つのが日本の外食業の進出です。都市別の在留邦人数では約3万5000人と世界第5位のバンコク(上位4都市は、ロサンゼルス、上海、ニューヨーク、ロンドンの順)ですが、少なくともアジア地域では、日本食のレベルが最も高い都市です。
従来、アジア地域の日本食レストランは、ちょっと不思議なメニューを出すお店が大半でした。日本食の材料入手が難しかったり、市場価格に合わせるためだったり、どうしても中途半端なメニューが多く、経営されている方を見ても、脱サラした駐在員や日本食レストランで数年働いた地元の人が主流でした。
ところが、ここ数年のバンコクでは、日本で成功を収めた飲食店による、成功したビジネスモデルをそのまま展開するパターンが増えています。多少のローカライゼーションはありますが、基本、日本国内のメニュー、サービス、店舗デザインを、そのままタイに「輸出」しています。国内では誰でもが知っている牛丼屋さんや定食屋さん、うどん屋さん、ラーメン屋さんがバンコクに存在し、日本とほぼ同じ金額で、同じメニューを味わえるのは、一昔前には想像できなかったことです。
商業施設を扱うバンコクの日系不動産企業に聞くと、毎週のように日本から新規店舗の問い合わせがあるそうです。外国人が多く、地元でも裕福な人が多いスクンビット地区では、良い物件は必ず数社の競合になっているそうです。
驚かせられることがもう1つあります。東京で言えば、青山や原宿と言ったおしゃれな地域の新しい高級商業施設に、こうした店舗が出店していることです。日本で言えば、郊外の商業施設に展開しているブランドが表参道に軒を連ねている感覚です。これは推測になりますが、日本と比べれば、賃料や人件費、輸入品を除く原材料費が圧倒的に低いバンコクで、日本と同等の価格でビジネスができれば、国内事業の数倍は利益が上がるのではないでしょうか。であれば、この不思議な店舗ロケーションも納得がいきます。
また、さらに驚かされるのは、どの店舗の来店客もタイ人の割合が多いことです。少なくとも半分はタイ人でしょうか。国内経済の順調な成長によって可処分所得が増加し、普通の人達が、普通に日本食レストランを利用しています。ちなみに、タイではテレビ東京系の「TVチャンピオン」が今でもよく再放送されています。この番組で優勝したラーメン屋さんやおすし屋さんは、日本人駐在員よりタイ人の方が知っていたりします。
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