フジテレビのテレコアプリの場合、番組制作の現場と調整を付けて、番組連動するコンテンツをあらかじめ制作する必要がある。
テレコアプリのサービスは、番組内の音声にウォーターマーク(聴感上気が付かない印のこと。特別なデコーダーを介さないと、埋め込まれた情報を取り出せない)を仕込んでおいて、配信するという仕組みであるため、番組制作側の協力は欠かせない(番組を制作している人たちを説得しなければ、話が始まらない)。
当然、付加コンテンツを作るためのコストも必要になるため、ハードルは高く、なかなか実際の番組制作にまで至りにくいのが弱点と言えるだろう。実際、テレコアプリも対応番組が続いてこないのが現状だ。対応番組が続かないと、スマートフォンのホーム画面上のいい位置にアイコンを置いてもらえないし、いい位置に置いてもらわなければ、そのうち忘れ去られてしまう……。ここがテレコアプリのような、番組連動型スマートテレビコンテンツの難しさだ。この点は、テレビ朝日のテレ朝リンクはもちろんのこと、データ放送を用いる日本テレビのJoinTVも本質的には同じだ。
番組連動型スマートテレビコンテンツは、局を挙げての協力がなければ、盛り上げていくのは難しい。しかし、その半面、定着すれば、収益化しやすく、消費者にとっても便利なサービスとなっていく可能性がある。番組と連動して、欲しい商品やサービスの予約が行えたり、何かのプレゼントやイベントなどのキャンペーン登録が行えたりする。あるいは、好きなタレントとの接点を何らかの形で持つといった機能も考えられる。
一方、日本テレビのwiz tvは、SNSの中身を分析しながら、世の中に流れている情報をスコア化して見せているだけなので、在京キー局のみの対応とはいえ、全てのテレビ局・番組に対応している。だから、いつ立ち上げても必ず、そこに何らかの情報がある。サービスの立ち上げやすさという面では、ダントツにこちらの方が楽だ。
こうしたコンセプトは、何もwiz tvだけがやっているわけではない。例えば、テレビ局以外の事業者が行っているものとしては、ニワンゴの「ニコニコ実況」が有名であるし、そもそも、番組内容の音声認識やネット上での話題をモニタリングしながら、オススメコンテンツを教えてくれるサービスなどは、これまでも幾つか存在していた。テレビ番組の制作には全く関係のないところでスコアが付けられ、その周辺にある情報を拾って見せているだけなので、テレビ局でなくとも、wiz tv型のサービス/アプリは作りやすい。
しかし、その半面、収益化が難しいという問題がある。コンテンツとの直接的な連動がなく、具体的な商取引やプロモーションプランと結び付けにくいためである。
このように整理してみると、やはりテレビ番組の企画サイドからは、テレビの“スマート化”が仕掛けにくいような印象を受ける。しかし、こうした一連の動きの中で、最も細やかに小回りよく動いている日本テレビは、幾つかの実験的な放送を通じて経験値を積み上げ、次の段階に進もうとしているようだ。
つい先日のことだが、日本テレビは「2013年 ぜんぶやります! ハリー・ポッター祭り!」と題し、2013年3月から今秋にかけて、映画『ハリー・ポッター』シリーズ全8作品を放送するというプロモーションを開始した。番組の企画そのものはよくあるタイプで『金曜ロードSHOW!』のプロモーションなのだが、その取り組みが、春・夏・秋と長期間におよぶ点が最大の特徴(問題?)だ。
“ハリー・ポッター祭りが開催されている”ことを、なるべく忘れずにいてもらうためにどうしたらいいか? という工夫・仕掛けを、彼らはここで展開しようとしている。
一般的に、テレビ番組の公式Webページへのアクセス数は少なく、全体の視聴者数と比べると重視すべきものではないが、“番組放送直後”に限っていえば、多くの人が訪問している。そこで、日本テレビは、JoinTVやwiz tvといったツールを使うことで、ハリー・ポッターを見終わった人を公式Webページへと誘導。そこに、クイズ(検定)やくじ引きなどに挑戦し、ポイントをためて、プレゼントと交換できる仕掛けや、過去のストーリーやシリーズの世界観をより深く理解できるコンテンツを用意することで、視聴者と番組コンテンツとのつながりを深めようという狙いがある。
視聴者(番組を視聴し、公式Webページを訪問してくれた人)と、番組公式Webページ上のサービスをひも付けるために、SNSアカウントを利用。マルチデバイスでの個人認証・連携が実装されていく見込みだ。JoinTVでは、B-CASごとのユニークなIDとSNSアカウントがひも付けされており、内部的にはユニークな共通IDとして管理される。
この仕組みを上手に使えば、テレビ視聴からスタートし、スマートフォンの画面、データ放送画面、それにWebページが共通IDでつながり、テレビ視聴、スマートフォン連動の状況、番組終了後のWebページ閲覧や興味を持った事柄といった視聴者の行動を正確に把握できるようになる。もし、これが実現できたならば、視聴者ごとの好みを分析し、1つの番組シリーズだけに閉じるのではなく、もっと多様なレコメンドを提供したり、ターゲティング広告を配信したりなど、さまざまな活用やビジネスが成り立つ。その先には、新しいビジネスモデルが見えてくるのではないだろうか。
本田雅一(ほんだ まさかず)
1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。
Twitterアカウントは@rokuzouhonda
近著:「iCloudとクラウドメディアの夜明け」(ソフトバンク新書)
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