半導体に関する各国の政策や技術開発の動向、そしてそれぞれに絡み合う用途市場の動きを分析しながら、「ポスト政策主導時代」の半導体業界の姿を提示する本連載。第1回は、ポスト政策主導時代の震源地となっている米国の動向を取り上げる。
コロナ禍後の各国における半導体産業への政策資金供給による「半導体バブル」が各国で起こったものの、足元では米国の新政権による政策転換の可能性が浮上するなど、政策主導によるバブルが一服しようとしている。その一方で、半導体の技術開発の競争軸は、微細化一辺倒から3次元積層へと変化し、先端半導体の主な用途であるAI(人工知能)アプリケーションが多様化する中で、半導体サプライチェーンの勢力図にも変化の兆しが表れ始めている。
本連載では、半導体に関する直近の各国の政策や技術開発の動向、そしてそれぞれに絡み合う用途市場の動きを分析しながら、「ポスト政策主導時代」の半導体業界の姿を提示する。連載第1回は、本連載の主題である半導体市場におけるポスト政策主導時代の震源地となっている米国の動向を取り上げる。
コロナ禍以降、米国、欧州、中国のみならず台湾や韓国、さらにはマレーシアなどの東南アジア諸国、そしてインドにおいても半導体産業向けの大規模な政策資金が導入されてきた。日本も例外ではなく「半導体・デジタル戦略」の下で、2021〜2023年度に補正予算ベースで約3.9兆円の政策資金が投入されており、まさに半導体産業は政策資金バブルの様相を呈している。
世界中の半導体政策資金競争の発端となったのが、米国による「CHIPS科学法(CHIPS and Science Act)」である。そのCHIPS科学法の主要施策である製造設備投資への税控除の対象期間が2026年末まで、製造設備投資への助成金である“Chips for America Fund”の対象期間が2027年とそれぞれ期限が迫る中、半導体産業は新たな局面を迎える。
CHIPS科学法は以下の4点を主要な目的として2022年8月に成立した。
それから約3年が経過した現在、果たしてこれらの目的はどこまで達成されているのであろうか。
まず、米国内への半導体製造拠点の回帰についてであるが、これまでに主要なファウンドリーやIDM(Integrated Device Manufacturer:垂直統合型デバイスメーカー)によって、総額約300億米ドル(約4兆3000億円)以上の米国内製造拠点への投資が執行または決定されている。しかし、これは当初の製造設備投資への補助金予算枠527億米ドルの6割弱にすぎない。
また、大手IDMで見られたように投資発表から政府資金の給付が大幅に遅れ、実際のFab(Fabrication Facility:製造工場)着工までに想定外の時間を要した案件も複数発生している。さらに、予算確定後もFab建設の着工や工期が当初計画に対し大幅に遅れる事案が続出した。
着工や工期の遅れの原因として、現地の建設事業者の能力不足、建設作業員の不足、治具や備品などのサプライヤー不足など、複合的な半導体製造に関わるインフラの不足が指摘されている。当然、工期の遅れによって、当初期待された雇用効果も後ろ倒しとなった。例えば、アリゾナ州、オハイオ州でそれぞれ計画されていたファウンドリー/IDMの複数のFabの建設/稼働予定がいずれも1〜2年遅延することにより、建設/製造を合わせた5万人以上の雇用創出も後ずれする結果となった。
このように製造回帰策が想定通りに進まない中で、米国の半導体サプライチェーンにおける東アジア依存からの脱却には程遠い状況が、結果として当面続くとみられる。
また、先端技術における米国の覇権維持、イノベーションの促進についても、国立半導体技術センター(NSTC:National Semiconductor Technology Center)を中心に先端技術開発の体制が整備されたものの、当初もくろまれていた先端半導体製造技術のキャッチアップについては、一連のFab/R&D施設の建設遅れに加え、米国内の製造企業の経営上の問題もあり台湾/韓国に対して依然として劣後している状況である。
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