三菱電機が新たに開発した「物理モデル組み込みAI」について説明。対象機器の動作や制御に関わる物理モデルの理論式を組み込むことで、予防保全に必要な機器の劣化を推定するAIモデルの開発に必要な学習データの量を約90%削減するとともに、劣化推定の精度を約30%向上できた。
三菱電機は2025年12月10日、東京都内で会見を開き、新たに開発した「物理モデル組み込みAI」について説明した。対象機器の動作や制御に関わる物理モデルの理論式を組み込むことで、予防保全に必要な機器の劣化を推定するAI(人工知能)モデルの開発に必要な学習データの量を約90%削減するとともに、劣化推定の精度を約30%向上できたという。今後実機評価を継続した上で、2027年度以降に同社製品への適用を検討していく方針である。
同社は2017年から、機器/エッジをスマート化するAI技術を「Maisart」ブランドで展開してきた。今回開発した物理モデル組み込みAIは、Maisartブランドの下で同社が長年培ってきた事業領域や現場での知見/ノウハウと物理法則を融合し、機器やシステム全体をより賢くする、安全で信頼性の高い独自のフィジカルAIとして位置付ける「Neuro-Physical AI」の第1弾となる。
三菱電機 情報技術総合研究所 AI研究開発センター センター長の毬山利貞氏は「現在話題になっているフィジカルAIは、シミュレーター上で学習を積み重ねることで物理空間における最適な動作や制御を行えるようにするイメージだろう。この場合大量のデータを用いた学習が必要であり、学習するデータがない領域を予測できないという課題もある。これに対して物理モデル組み込みAIは、物理モデルを基軸にして学習するので少ない学習データでも高精度かつ高信頼なAIモデルを実現できる。ここで重要なのは物理モデルの選定だが、当社はAIモデルを組み込む機器/システムに関する物理法則や工学体系、制御理論に基づく専門知識を持つとともに、これまでMaisartブランドで物理的知見を備えたAIモデルを構築してきた実績がある点で優位性があると考えている」と語る。
今回、物理モデル組み込みAIとして開発したのは、機器の劣化を推定し予防保全を可能にするAIモデルである。
従来の予防保全は、機器の挙動を数式やシミュレーションで再現し、その結果を基に劣化を推定する方法が一般的でしたが、物理知識を持つ専門家が劣化判定の仕組みを一から設計する必要があるため、多大な時間と労力を要する点が大きな課題だった。この課題を解決する手段として、事前に運転データなどを用いて学習したAIを劣化推定に活用する動きが進んでいるものの、運転パターンや個体差、設置環境などの条件の組み合わせを考慮した網羅的な学習を行うためには、膨大なデータが必要となる上、条件が変わるたびに再学習を要するため、実用化には依然として課題が残っている。
これらの課題を解決するために導入した物理モデルが逆動力学方程式である。動力学モデルを用いて、望む動き(関節の位置、速度、加速度)を実現するために必要な関節トルクや外力を計算する方程式であり、主に生体力学や機械工学などの分野で使用される。多関節を有する産業用ロボットなどの回転運動は、この逆動力学方程式に基づいている。
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