この物理モデルを利用することで、大量のデータがなくても大まかな物理挙動を事前に推定できる。さらに少量の実測データを用いることで、機器個体差や環境変動といった物理モデルに基づく挙動推定に対するデータの傾向変動も推定できるようになる。この物理挙動と傾向変動を基にすれば正常範囲を設定可能であり、未学習の運転パターンなどの外挿にも対応できるという。
この物理モデル組み込みAIの効果を確認するため、潤滑剤を除去した三菱電機の産業用ロボットの軸摩耗を推定するAIモデルを構築する実証実験を行った。まず、少量のデータで機器の劣化を推定できる点については、ガウス過程回帰を用いた機械学習でAIモデルを構築するのと比べて、物理モデル組み込みAIは必要な学習用運転データの量を約90%削減できた。
さらに、異なる運転パターンでも高精度な劣化推定を行える点については、二値分類モデルの性能評価に用いられるROC曲線に基づく評価を行った。ガウス過程回帰を用いた機械学習によるAIモデルでは曲線下面積が0.68〜0.89だったのに対し、物理モデル組み込みAIはほぼ全件を正しく分類したことを示す0.98〜1.00を達成した。
異なる運転パターンにおける劣化推定の比較。ガウス過程回帰を用いた機械学習(左)は正常範囲が正常な実測データから大きく離れているため誤推定が発生している。一方、物理モデル組み込みAIは適切な劣化推定が行えている[クリックで拡大] 出所:三菱電機なお、今回開発した物理モデル組み込みAIは、汎用PCを用いて推論実行することが可能だ。「今後実機評価を重ねる中で軽量化することも可能だろう」(毬山氏)としている。
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