半導体産業政策の継続支持派が、2026〜2027年のCHIPS科学法の期限到来後に期待する新たな政策が「STAR法案(Semiconductor Technology Advancement and Research Act)」である(表1)。
STAR法案の概要 | |
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正式名称 | Semiconductor Technology Advancement and Research Act (STAR Act of 2024/2025) |
法案提出時期 | 2024年2月 |
提出者 | トッド・ヤング上院議員(共和党)、マーク・ワーナー上院議員(民主党)などの超党派の両院議員 |
目的 | 半導体産業における米国の技術的自立と経済安全保障強化 |
支援対象工程 | 製造工程およびEDA、設計、PI開発などの設計/開発工程 |
支援方式 | 対象の投資に対して25%の税控除 ・製造工程:CHIPS科学法の製造設備投資控除(AMIC)を継続 ・設計/開発工程:同様の投資に対する25%の税控除を新設 |
支援対象企業 | 製造、設計/開発:ファウンドリー、IDM 設計/開発:ファブレス、EDAベンダー、IPベンダー |
表1 STAR法案の概要 出所:米国政府機関資料、トッド・ヤング上院議員事務所HP、各種記事を基にPwCコンサルティングまとめ |
STAR法案は、CHIPS科学法の先端製造投資税額控除(AMIC)の期限を2026年からさらに10年間延長するのに加え、設計/開発に対しても新たに税額控除を設定しようとするものである。直接の補助金交付を中心とし、半導体の用途領域も含め総予算が約2800億米ドルに達するCHIPS科学法に比べて予算規模は各段に縮小する。
しかし注目すべきは予算規模ではなく、その内容である。CHIPS科学法ではハードウェア技術のR&D、製造工程の設備投資への補助金が中心であった。これに対して、STAR法案では、ソフトウェア、IP、アーキテクチャといった非製造分野においても焦点が当てられ、米国内の設計、EDAツール、IP開発およびそれらによる先端R&Dの振興を目指す方針が明示されている(表2)。
CHIPS科学法 | STAR法案 | |
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政策手段 | 直接補助金/税控除 | 税控除 |
政策対象 | 製造設備、建屋 | 設計/開発、EDA |
ハードウェア | ソフトウェア | |
政策方向性 | 製造能力の米国内回帰 | 上流工程の技術力強化 |
表2 CHIPS科学法とSTAR法案の比較 出所:米国政府機関資料、各種記事を基にPwCコンサルティングまとめ |
STAR法案を推進しているのは、CHIPS科学法の法制化にも関わった上院議員のトッド・ヤング氏(共和党)、マーク・ワーナー氏(民主党)らである。彼らの目指す政策の方向性が、CHIPS科学法で掲げられた製造工程の国内回帰から、もともと米国が圧倒的な強みを持つ上流の設計/開発のさらなる強化へ方針転換されようとしているのかもしれない。
東アジアのファウンドリーに対しては、関税や防衛などのさまざまな政策を交渉カードとして組み合わせながら米国に対して一定のコミットメントを持たせつつ、米国内への製造回帰に過度にこだわることなく、米国にとってのサプライチェーンの保全/最適化を図っていく可能性もあるのではないか。そして、米国による技術覇権を支える鍵としては、やはり圧倒的な強みを有する設計/開発チェーンであると再認識したのかもしれない。この設計/開発チェーンにおいても中国の技術獲得が目覚ましく、このままではこの領域においても覇権を失うリスクがあるという焦りがSTAR法案には表れていると見ることができよう。
ともあれ、CHIPS科学法のような巨額の製造投資支援策が2026年を境にいったん収束に向かうとすれば、コロナ禍以降の半導体産業バブルも終焉(しゅうえん)するだろう。これまでの政策資金によるバブルは先端分野のみが注目されがちであったが、このことはレガシーも含めた製造に関わる設備や部素材の需要に一定のダウンサイドリスクが生じることを意味し、日本の装置/部素材企業に対しても市場環境は今後厳しさを増す可能性がある。
しかし、STAR法案に見られる通り、先端半導体の開発熱は依然として続き、仮に製造が引き続き東アジア中心となるにしても、サプライヤーにとっての先端製品向け需要の盛り上がりは今後も継続するだろう。
次回は、米国と同様に半導体産業への政策資金供給を「欧州半導体法」で定めていた欧州の動向を取り上げる。(次回に続く)
祝出 洋輔(いわいで ようすけ) PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー
証券会社/投資評価会社における個別株/ファンドアナリスト、監査系コンサルティングファームにおけるリサーチアナリスト/コンサルタントを経て現職。一貫して、半導体産業を含む機械/電機/製造設備などの資本財セクターを担当。
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