かつては世界最強のブランドといわれた“メイドインジャパン”が現在苦戦を強いられている。そんな中で「デジタルカメラ」は、誕生から現在に至るまで、グローバルで戦える製品として存在し続けている。「ITmedia Virtual EXPO 2012」では、キヤノン常務・眞榮田雅也氏と人気ライター・本田雅一氏を迎えて対談を実施。デジカメメーカーのモノづくりをひもとくことで、今後の日本のモノづくりの方向性を探ってみた。
先日、キヤノン常務・イメージコミュニケーション事業本部長の眞榮田雅也氏から「なぜ日本のカメラメーカーは、デジタルカメラの分野で存在感を失わないか」をテーマに話を伺った。
いや、本当は“対談”というセッティングなのだが、私自身にモノづくりの経験はない。無論、外から見た意見は常に記事の中に織り込んできたが、実際の業務執行を行っている事業責任者の「内からの声」には多くの真理が含まれていると思うため、もっぱら質問と聞き役、すなわち取材におけるインタビューの形で進んだ。
他のエレクトロニクス製品の多くがデジタル化とともに日本特有の魅力を失い、激しい競争にさらされたのに対し、カメラは日本ならではのきめ細かなモノづくりの姿勢を維持する環境が継続しているように見える。眞榮田氏はその理由について、ズバリ「カメラ産業が日本で衰退していかない最大の理由はレンズにある」と指摘した。
一般論から言えば、メディア、コンテンツのデジタル化が進むと、低価格製品の性能、品質が底上げされ、モノづくりの障壁が低くなり、メーカー間の製品が平準化していく。その一方で、中間層が低価格製品に流れやすい環境が生まれるため、コストをかけて品位を向上させた製品の投資回収は難しくなっていく。
ところがカメラの場合、デジタル化によって高品位なレンズを求める声が高まり、むしろアナログ技術による差異化がしやすい環境が生まれている。眞榮田氏は次のように話した。
「イメージセンサーが進歩し、画素数が増えていくことで、レンズの性能限界を誰もが簡単に知ることができるようになりました。デジタルの時代は、誰でも簡単にピクセル等倍でディスプレイに表示することで、ごくごく小さな、従来のフィルム時代は問題にならなかったような細かい収差を調べることができます」
「これが当たり前になってくると、どんなに良いレンズを作ったと思っていても、イメージセンサーの技術が進んでくると、またレンズ性能が足りないと言われるようになります」と時代の変化について話す眞榮田氏。一部にはデジタルデータのピクセル等倍評価には意味がない、といった意見も聞かれるが、眞榮田氏の意見は異なる。
「そんな細かな部分を拡大して何になる? という話はよく聞きますが、実際にレンズを改善してみると、撮影される写真が全く違う次元の画質へと達したと感じることができます。人間の感性とはとても敏感で繊細なもので、良くなれば良くなるほど自然に近くなり、良い画質だと感じることができます。そんなレンズに対する飽くなき画質追求が、デジタル化で誰でも確認できるようになり、それが気付きとなって高画質なカメラの進化が加速されています。過去の蓄積がなければ、こうした“疾走し続ける”中で後発メーカーが参戦するのは難しいものです」(眞榮田氏)」
大幅に簡略化して話すならば、製品を差異化する主要な価値の1つとしてアナログ技術が残っているからこそ、日本のカメラメーカーは競争力を維持できている、という意見になるだろう。デジタルカメラといっても、撮像素子で光を捉えるまでのプロセスはアナログだ。
その後、デジタル変換が行われた後の処理はもちろんアナログではなく、突き詰めればいずれ、メーカーの製品は平準化されるのかもしれない。しかし、現時点ではそうはなっていない(映像処理の技術や絵作りといったノウハウもまねは難しい)。アナログ部分での差異化が基本的な競争力の差を生み出し、それ故に投資を集中させることが難しく、デジタル部分の価値も同等レベルまで追い付けない。
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