ルネサス エレクトロニクスが同社のArmコア搭載マイコン「RAファミリ」の第2世代品となる「RA8P1」について説明。TSMCの22nm ULLプロセス、MRAM、ArmのAIアクセラレータIP「Ethos-U55」を採用しており同社Armマイコンのフラグシップに位置付けられる。
ルネサス エレクトロニクスは2025年7月2日、東京都内で会見を開き、同社のArmコア搭載マイコン「RAファミリ」の第2世代品となる「RA8P1」について説明した。TSMCの22nm ULL(Ultra-low Leakage)プロセスによる高い処理性能と低消費電力の両立、不揮発メモリとしてフラッシュメモリより高速なMRAM(磁気抵抗メモリ)の採用、“マイコンでAI”の需要に対応するArmのAI(人工知能)アクセラレータIP「Ethos-U55」の搭載などにより同社Armマイコンのフラグシップに位置付けられる。同日に発売するとともに量産を開始している。
同社 エンベデッドプロセッシング事業部 シニアプリンシパルエンジニアの葛西信也氏は「当社がArmマイコンに参入したのは2019年と後発になるが、2020年にセキュリティに特化した製品を投入し、2023年には業界初の『Cortex-M85』搭載マイコンを発売するなどして市場をキャッチアップしてきた。事業の立ち上げから約5年で50億円規模の新規のデザインウィンを獲得するなど高い評価を受けており、何より既存のマイコン製品とのカニバリゼーションなども起きていない」と成果を語る。
ルネサスのArmマイコンがセキュリティ対応を進めたのは組み込み機器のIoT(モノのインターネット)化に対応するためだ。そして今後のマイコン市場では、IoTとAIを融合した「AIoT」へのニーズが高まると見られている。「AIの推論処理をエッジで分散して行うニーズが高まる一方で、エッジに数多く存在するマイコンでAIの推論処理を行う“マイコンでAI”のニーズが高まっている」(葛西氏)という。
エッジでAIモデルの推論処理を行う場合、マイコンとリアルタイムOS(RTOS)の構成から、アプリケーションプロセッサを搭載するMPUとLinuxなどのハイレベルOSの組み合わせに移行することが想定される。しかし、アーキテクチャが大きく異なることもあって移行の負荷が極めて大きい上に消費電力やコストも高くなってしまうため、マイコンとRTOSのままAIの推論処理に対応したいという要望が強い。そして、この“マイコンでAI”のニーズに応えるようにマイコンの進化が加速している。ローエンドMPUに迫る高性能コアが登場しており、マイコン向けのAIアクセラレータが登場し、マイコン向けに最適化されたAIモデルのライブラリも充実しつつある。
ルネサスはこれまでエッジAIへの対応として、時系列データなどのリアルタイム分析であればローエンドの「RL78ファミリ」で、自然言語理解などのボイスAIであれば「RXファミリ」とRAファミリで、そして処理すべきデータの容量が大きい映像系のビジョンAIについてはMPUの「RZファミリ」で対応する体制をとってきた。葛西氏は「今回のRA8P1によってビジョンAIにも対応可能となり、マイコンでAIの可能性を1段階引き上げられる」と強調する。
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