IT+サービス+ヒューマンリソース本田雅一のエンベデッドコラム(6)(1/2 ページ)

仕事を細分化し、分類することで、人的リソースの調達を効率的に行おうという「Human Cloud(ヒューマンクラウド)」。この先進的な考えをビジネス化している事例が国内にあった。オペレーションを日本で行い、人権費の低い地域の労働力を活用することで競争力を得る手法を探ってみた。

» 2011年05月13日 11時00分 公開
[本田雅一,@IT MONOist]

 Human Cloud(ヒューマンクラウド)に関する話題を以前に書いた。この話は冗談でも何でもなく、仕事を細分化し、分類することで、人的リソースの調達を効率的に行おうという考え方だ。この話題について話していると、知人は「Human Cloudなら、中国に既にあるじゃないか」と冗談を言った。いや、そのころは言った本人も含め、それが冗談だと思っていたのだが、どうやら本当に中国の労働力をクラウドとして利用している会社があるらしい。そんなうわさを聞いて調べてみると、確かにこれこそがHuman Cloudと言える事例があった。大分県のO-RID(オーリッド)という企業が提供している文字入力サービスである。

 このサービスの特徴は、書き込み枠などは関係なく、フリーフォーマットで記入した文字を驚異的な確度でテキストデータへと変換することである。このサービスを実現するために、O-RIDはITシステムと2000人の労働力を使っている。

ユニークな発想で正確な文字認識と高い秘匿性

 O-RIDの文字入力方式がユニークなのは、複数の技術を適材適所で組み合わせ、最大限の成果を安価に実現していることだ。

 例えばOCR技術を用いる場合、活字やコンピュータフォントによる打ち出しであれば認識精度を上げることは可能だが、手書きになると認識率が極端に落ちる。特にマス目に沿った記述でない場合は、文字を構成する部位の分離判別が難しい。

 日本語のように複雑で、なおかつ複数種類の文字が混在する文章を認識するには、やはり人間の介在が必要と感じる場面は多い。しかし、人間が文字を判別しながらの入力には、作業効率の低さ以外にも幾つかの問題がある。中でもデータセキュリティの問題は、文字入力の代行を外部に依頼したいと思う企業の中でも、最も大きな懸念の1つではないだろうか。

 例えば生命保険や損害保険の調査報告書など、データベース化して検索性を高めたいが、掛かる手間やコスト、それに情報漏えいのリスクなどを考えて、社内でも社外でも処理しづらいデータはいくらでも考えつく。

 そこで、O-RIDの文字入力代行システムでは、その両方を組み合わせることで作業性の高さや認識率の向上、セキュリティの高さなどを実現している。数年前に一部で話題になったことがあるため、ご存じの方もいるかもしれない。

 O-RIDの開発したシステムは、認識すべき画像を中から文字と思われる部分を抽出し、1つ1つでは意味がない程度まで細かく自動的に分解する。分解した文字のグラフィックスデータに対して文字認識を掛け、その結果、浮かび上がる複数の候補を記録。

 そして、認識に利用したグラフィックスデータと認識後の文字データ候補の組み合わせを、入力センターの従業員が見ながら、どの認識結果が正しいのか、あるいは全て間違っているのかなどを判断。その結果を収集し、並べ替えて元の画像と関連づけられた上で顧客へと送られる。

 認識すべき文字を細かく分解することで、入力作業者の負担が減り、日本語を知らない作業員でも動員できる上、人間の判断が加わることで高い認識精度を実現。そして(大変に重要なことだが)とても情報漏えいしにくいという特徴も併せ持っている。

ソフトウェア+サービス+ヒューマンリソース

 この話を聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのがHuman Cloudという考え方だ。O-RIDはもう何年も前から、ヒューマンリソースを活用するこのシステムを運用しているそうだから、シリコンバレーでHuman Cloudが話題になるよりも、ずっと前から人的リソースの効率活用をITの力で実現するアプローチを実践していたことになる。

 クラウド的だと感じたのは、仕事を細かく砕き、単純な作業を低コストな労働力に割り当てるからだけではない。O-RIDは高精度かつ高速な文字入力代行サービスを実践するため、前述したように大量の従業員を確保している。

 この大量の従業員は、大口の企業顧客が必要とする大量の処理と厳しい納期を実現するために抱えている。月末、あるいは期末処理などで処理ピークを迎えるときに合わせて従業員を確保する必要があるのは、商戦期に合わせてサーバの処理容量を確保せねばならない電子商取引サービスにも似ている。

 そこでO-RIDはKyberという一般利用者向けの文字認識サービスを商品化している。Kyberの仕組みは業務用に提供しているサービスと同じだが、画像ストレージサービスや名刺管理サービス、カレンダーサービスといった形式を取っている点が異なる。それぞれオンラインでコンシューマに提供するクラウド型サービスだ。

 それぞれ毎月の処理件数が少ないフリー版もあるが、有料版でも料金プランによって1枚当たり20〜100円(文字数制限はない)で処理してくれる。名刺専用サービスならば、1枚当たりのコストは8〜9円でしかない(名刺管理サービスの料金は別途必要)。これらサービスのかなり高い認識率や人の介在を考えれば、この価格設定はかなり安い。

 しかし、O-RIDはヒューマンリソースの稼働率を高めるために、このサービスを提供している。フリー版の認識速度は“ベストエフォート”となっており、処理の合間に認識プロセスが挿入される仕組みだ。月額の契約料金が上がるごとに最長の認識時間が短くなり、最も高価(といっても月額3万円)な契約では12時間以内に1枚分の文字認識が提供される。さらに1枚当たり1時間で認識させるエクスプレスサービスなどもある。

 つまり、優先処理である大口顧客のための処理にプラスし、コストに合わせた優先順位で処理を振り分け、複数の料金プランの提供と稼働率の向上(投資効率の上昇)を実現しているのだ。これも、仕事の単位を誰もが処理できる小さなものへと砕き、成果を再度組み立てるプロセスをITの力で実現しているからだ。オペレーションを日本で行い、人権費の低い地域の労働力を活用することで競争力を得る手法は、今後の少子化による労働人口の減少に対して、各業界で何ができるかを考えるヒントにもなるだろう。

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