IIJとテムザック、パルシベイト、コヤワタオフィスの4社は、耕作放棄地化が急速に進む中山間地にある条件不利農地において、無線やロボットなどの技術を用いた省力化稲作支援サービスを構築する実証プロジェクトを2025年6月に開始したと発表した。
インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)とテムザック、パルシベイト、コヤワタオフィスの4社は2025年7月23日、東京都内で会見を開き、耕作放棄地化が急速に進む中山間地にある条件不利農地において、無線やロボットなどの技術を用いた省力化稲作支援サービスを構築する実証プロジェクトを同年6月に開始したと発表した。宮崎県延岡市をはじめ3カ所で取り組んでいる再生二期作や陸稲による稲作について、同サービスが適合するかを省力化と収量の観点から評価する。早ければ、同プロジェクトの成果を活用したサービスの提供を2026年度内に始める方針である。
今回の実証プロジェクトは、IoT(モノのインターネット)を活用したスマート農業に2017年から取り組んでいるIIJがプロジェクトリーダーとなり、2022年12月から宮崎県延岡市でロボットによる農業の省力化に取り組んでいるテムザックや、先進技術を用いたソリューションに強みを持つAI(人工知能)スタートアップのパルシベイト、ドローンやロボットの運用を得意とするコヤワタオフィスの4社がコンソーシアムを組んで実施する。総務省が公募した「地域社会DX推進パッケージ事業(先進無線システム活用タイプ)」に採択されており、実施期間は2025年6月〜2026年3月。実証フィールドは、宮崎県延岡市北浦地区、福岡県福岡市西区九州大学試験農場、神奈川県秦野市三廻部地区の3カ所。プロジェクトパートナーとして、延岡市、延岡市北浦町農業公社、九州大学とも連携していく方針である。
IIJ ネットワークサービス事業本部 IoTビジネス事業部 副事業部長の齋藤透氏は「IIJでは稲作を中心にスマート農業に取り組んできた。最近では果樹やサトイモなど作物の対象を広げ、自ら圃場に足を運んで実証を行っている。Wi-Fi HaLowなど最新の無線通信技術の検証/活用なども行ってきた。ただし、これまでの取り組みで不足していたのがロボットだった。今回の実証プロジェクトでは、当社の無線通信技術にロボットを取り入れることでスマート農業の取り組みを加速していける」と語る。
テムザック 常務取締役の瀬戸口純一氏は「きつい/危険作業から人を解放することを理念として、これまでにロボットを50種類ほど開発してきた。ロボット稲作への取り組みは2年半前にスタートしたが、連携協定を結んだ延岡市が最大の課題にしていたのが急速に進む耕作放棄地対策だった。スマート農業の王道は大規模農業&効率追求だが、当社が貢献できる領域は、国内の農地比率で40%を占める中山間農地における耕作放棄地化を押し止められるような『省力化』だと考えた。そのために必要なのは、大型機械ではなく小型の群ロボットだ。今回の実証プロジェクトも、省力化稲作による耕作放棄地拡大の抑制が基本コンセプトになっている」と強調する。
実際に国内農業における高齢化、担い手不足、耕作放棄地拡大は歯止めがきかない状況にある。農業従事者のピーク年代は75歳以上であり、2015年の農業センサスでは耕作放棄地面積が1985年比で3倍以上となる42.3万haまで広がっている。対策としては農業法人による大規模農業が挙げられるが、ここで課題になるのが中山間地や傾斜地といった条件不利農地である。採算が取りにくい条件不利農地は農業法人の引き受け能力に限界があるものの、日本の米年間消費量/生産量とされる約700万トンは作付面積比率で中山間農地が40%占めているという事実がある。つまり、このまま中山間農地の耕作放棄地化が進むと日本の米年間消費量を支えられなくなる。
瀬戸口氏は「中山間農地は、山間の棚田や変形農地、小規模農地、アクセス困難な農地が多く維持が難しい。この中山間農地を放棄させないためにやるべきなのは、大規模農業のような収量最大化ではなく省力化だ。効率は落ちても放棄するよりはいいというスタンスだ」と説明する。
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