顧客ニーズに応えるモノづくり力の強さ――。パナソニックはこれらをさらに深める方向で進化を遂げようとしている。
パナソニックでPCやタブレット端末などを担当するパナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部事業部長の原田秀昭氏は「国内PCメーカーは窮地に陥っている」と話す。
「同質化競争によりノートPCの差別化が難しくなったことに加え、スマートフォンとタブレット端末がノートPCの一部機能を代用するようになり、ノートPC市場を侵食するようになった。『同質化競争にどう対するか』ということがキーワードになっている。当社も今まで取り組んできたことだけでは足りない。さらに取り組みを深めていく必要がある」と原田氏は強調する。
その方向性は、さらに「顧客のニーズにきめ細かく応えていく」ということだ。
例えば、原田氏はITプロダクツ事業部の事業部長だけでなく、2013年4月1日からPOSやクレジットカードリーダー、ハンディターミナルなどを扱うターミナルシステムビジネスユニットの担当理事も兼任するようになった。その狙いとしてあるのが、カード決済機能やハンディターミナル機能などを加えたノートPCやタブレット端末の提供だ。従来はシステム構築が別で必要だったのを、最初からPCやタブレット端末に機能を組み込んで提供することで、B2Bユーザーに新たな付加価値を提供できるようになる。
「国内市場でいえばクレジットカードリーダーではパナソニックは大きなシェアを持っている。その強みを組み合わせることで同質化競争に巻き込まれない新たな立ち位置を築くことができる」と原田氏は話す。
現在多くのPCメーカーが、OEMやODMという形で生産や設計を外部に委託している。そうすると生産のコストは下がるが、画一的な製品が増え、結果として同質化競争に拍車を掛けることになる。さらに顧客にとっても利用できる機能の選択肢などは減ることになる。パナソニックが目指しているのはこれとは正反対の方向だ。
「われわれは『この機能をPCに加えたい』というような顧客の要望や困りごとをいかに広く受け入れられるか、ということを念頭に置いた開発を進めている。そのためハードウェアとしてもインタフェースや拡張性を持ちつつ、軽量や薄型などのニーズに応える設計を行っている。同質化競争を逆手に取り、もっと顧客ニーズに深く応える方向に進むことで、圧倒的な差別化ができる」と原田氏は強調する。
これは自社開発、自社生産を行っていないとできないことだ。「確かにコストだけを見ると中国やASEANで生産を行う方が安くなる。しかしレッツノートやタフブックを中国やASEANでOEM生産しようとしても同品質ではできない。むしろ品質や適応力を上げるコストは、日本で自社生産する以上に掛かることになる」と一貫開発、一貫生産の強みを原田氏は訴える。
原田氏は「“日本のモノづくりは匠”といっても、それが顧客にどういう利点をもたらすのか、という回答ができないのであれば、何も意味がない」と指摘する。「コストが高いという事実が残るだけだ。顧客の声に耳を傾けヒントを見つけ、今だけでなく将来にかけて、顧客にメリットをもたらし、さらに自社だからできることを続けていれば、自然と“匠の道”に昇華されていくはずだ」と目指すべき方向を語っている。
実はこのほど、ITプロダクツ事業部はモノづくりを評価するパナソニック社内のイベント「モノづくり成果展」で表彰を受けたという。それらの影響もあり、神戸工場などへのパナソニック関係者の見学も増えているようだ。同質化競争を逆手にとるITプロダクツ事業部の取り組みはある部分において、BtoBシフトを進めるパナソニックの成功の道筋を示しているかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.