日立スクロール圧縮機が実用化40周年、開発者が短期間で製品化できたワケを語るモノづくり最前線レポート(1/2 ページ)

日立ジョンソンコントロールズ空調は、日立スクロール圧縮機が実用化40周年を迎えたことを発表した。日立スクロール圧縮機は、世界で初めて実用化された空調用のスクロール圧縮機で、現在も改良が施され、同社の空調製品に搭載されている。

» 2023年05月23日 10時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 日立ジョンソンコントロールズ空調は2023年5月18日、静岡県静岡市の清水事業所で、日立スクロール圧縮機の実用化40周年を記念した式典を開催した。

オイルショックを背景にスクロール圧縮機を開発

日立ジョンソンコントロールズ空調 CEOの秋山勝司氏

 同社 CEOの秋山勝司氏は「日立スクロール圧縮機は、一般空調用として世界で初めて発売されたスクロール圧縮機で、ロータリー圧縮機やスクリュー圧縮機といった従来の圧縮機と比べ、構造的に圧縮ガスの漏れ損失が少量で体積効率が高いだけでなく、吸入/吐出弁が不要なため通路でのガス損失も少ない。静音性にも優れるため、業務用エアコンや冷蔵ショーケース、新幹線などでで採用されている。その開発に当たって要求された技術や商品化に向けたノウハウなどについて理解しているからこそ、開発者の努力や情熱、激務が目に浮かぶ。今後も、次世代の空調設備で導入される圧縮機を目指して、改良を進めていく」とあいさつした。

 日立スクロール圧縮機の開発は、1973年に起きた石油危機(オイルショック)の影響を受けて、日立製作所が圧縮機のエネルギー効率向上を最重要の課題と考え、1975年にスタートしたという。

 1970年代の後半は、店舗やオフィスで使用されるパッケージ空調機やルームエアコンに、これまで取り付けられていた往復動圧縮機の代替品として、効率や重量などの点で優れる回転式容積形の圧縮機が採用されはじめ、日立製作所でも、1.1kW以下の圧縮機を空調機に搭載する場合は回転式容積形のローリングピストン形圧縮機を導入し、22kW以上ではスクリュー形圧縮機を採用した。

 しかし、1k〜15kWでは、往復動圧縮機の性能を超える回転式容積形圧縮機がなく、その開発/実用化が求められていた。そこで、日立製作所は、スクロール圧縮機が高いエネルギー効率を備え1k〜15kWの容量で最適と考え、開発に取り組んだ。

 スクロール圧縮機は1905年に米国で特許が成立していたが、実用化に至っていなかった。その要因は、数μmの精度が必要なスクロール部品の加工技術がなかったことや、性能と信頼性を満足する機構がなかったことだとされている。

 こういった課題を踏まえて、日立製作所は、摩耗/焼き付けを抑え、高い性能と信頼性を確保する機構として「背圧(中間圧)支持機密機構」を開発するとともに、精密加工技術を確立し、出力が2.2k〜3.75kWの日立スクロール圧縮機を開発した。

日立スクロール圧縮機の1号機[クリックで拡大]

 日立スクロール圧縮機は、固定スクロール、旋回スクロール、オルダムリング、モーター、フレーム、クランク軸(シャフト)などで構成され、吸入されたガスが固定スクロールと旋回スクロールの渦巻要素(ラップ)やそのラップを保持する端板の間に形成される空間で圧縮される。

日立スクロール圧縮機の内部構造[クリックで拡大]

 固定スクロールは、外周部に吸入口、端板の中心部に吐き出し口を持ち、外周部で静止部品であるフレームに固定されている。旋回スクロールは、クランク軸の回転に伴い、偏心量を半径とする旋回公転運動を行う。この運動は、旋回スクロールを自転せずに姿勢を一定に保ったまま、固定スクロールの中心の周りで円軌道運動させる。

 オルダムリングは、この旋回スクロールの自転を防止する部品で、上面の突起が旋回スクロール背面のキー溝に、下面の突起がフレームのキー溝に組み込まれている。

スクロール圧縮機における圧縮プロセス[クリックで拡大] 出所:日立ジョンソンコントロールズ空調
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