本連載では設備保全業務のデジタル化が生む効用と、現場で直面しがちな課題などを基礎から分かりやすく解説していきます。今回は、設備保全のDXに向けた、経営層と現場の認識差を考えていきます。
第3回目の記事では、なぜ紙やExcelによる管理がなくならないのか、その構造と克服へのステップを以下の通り整理しました。
今回は、第3回目の記事の記事を補足する視点で、設備保全DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める際に起こるモノづくり企業の経営層と現場の認識差を考えていきます。
まず、モノづくりにおける「設備保全」をあらためて整理します。
設備保全とは、機械や生産設備が常に正常に稼働し続けるために、定期的な点検、整備、部品交換、修理などを実施し、設備の寿命を延ばすための活動を指します。
単に故障時の修理を行うだけでなく、突発故障などのトラブルの発生を未然に防ぎ、計画的なメンテナンスを行うことで、稼働停止時間を最小限に抑えます。これにより、安全性の向上、生産効率の向上、コスト削減、納期順守を担保します。
歴史的には事後保全(故障発生後の修理)から始まり、予防保全(定期的な点検や部品交換)へ、さらに近年ではIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を活用した予知保全へと進化しています。
これにより、設備の状態をリアルタイムに把握し、不具合が顕在化する前に対策を講じることが可能となり、データの記録ミスなどヒューマンエラーの軽減や作業効率の向上に寄与します。
修理のための交換部品は、自社内で事前購入して保管する場合と、故障時に初めて購入手配する場合に分かれます。判断基準としては、部品購入に割り当てられる予算と、保管コストのバランスが重視されます。
予防保全は部品の耐用年数や蓄積した設備の故障記録を分析し、性能低下の兆候が現れる前にグリスアップの頻度を上げたり、予測段階で部品を交換したりします。
予知保全では、予防保全の情報に加えて、熱/振動/電力消費量/製品品質の歩留まり等の実動作データを時系列の視点から分析し、異常値が観測される(つまり、故障や品質低下が発生する)前に文字通り「予知」して対策します。
工場現場の設備は何万点もの部品で構成されているため、故障が発生し得る箇所も膨大です。実際の製造現場でどこを定期的に点検するのか、故障しやすい箇所としてどこを優先的にメンテナンスしていくかは、高度な技術と経験が求められます。
起こりうる事故を可能な限り設備の設計段階から事前に対策し、残念ながら起きてしまった故障やトラブルの記録を残し、対策を重ねていくことで、設備保全の品質は高まっていきます。
設備保全は非常に重要な役割の1つであり、それらの適切な対応には、高度な技術が求められます。
しかし設備保全はモノづくりプロセスの「品質を維持する」機能であり、「付加価値を生む」機能とはいいにくい点が、現場の問題を複雑にしています。実際に設備保全に関わる方々へのインタビューを重ねていると、十分な投資がなされているとは言いがたい場面も見られます。
例えば、ある半導体メーカーでは、設備購入と設備保全サービスをセットで契約していました。その先の設備メーカーの保全チームまで深く調査してみると、複数の顧客に納品したたくさんの設備のメンテナンスをスタッフ1〜2人が掛け持ちし、退職が発生した後になってから、やっと後任の採用が検討されていたようです。
インタビューしたその担当者は全ての顧客の設備に対して当初計画通りの保全が行いきれず、点検頻度や点検項目を減らさざるを得ない状況に陥っていました(その後、2回目のインタビューでは後任の配属も決まり、顧客とも継続的に協議して既定通りの稼働に戻せたとのことです)。
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