設備保全の基礎と、経営/現場の構造的な課題設備保全DXの現状と課題(4)(4/4 ページ)

» 2025年07月15日 06時00分 公開
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事例:DX推進に挑戦する多田スミスの取り組み

 ダイカスト製品の製品開発から生産までを全て自社で行う多田スミスの事例を紹介します。

 同社は日々の生活に不可欠な厨房や温水機器に使用されるアルミダイカスト製品の製造を得意としています。全社的なDX推進の一環として、設備保全業務の効率化を目的にクラウド設備管理システムを導入しました。

 約700台の生産機器を8人の保全技術グループで管理する体制の中、従来のExcelや紙ベースの管理から脱却し、データの一元管理と可視化を実現。これにより、突発的な故障対応の迅速化や保全履歴の活用が可能となり、保全技術グループの残業時間が大幅に削減されています。

 クラウドシステムを導入することでイニシャルコストを抑制し、タブレット環境をすぐに現場で活用しています。

クラウドシステムを活用する多田スミスの現場 クラウドシステムを活用する多田スミスの現場

 紙やExcelで修理対応履歴を管理していたときには、修理対応履歴で撮影した写真は管理表からハイパーリンクを貼って管理していました。そのため、再発防止のために過去の修理履歴を確認する際には、過去のテキストや表の確認と写真の確認との間に、複数回の操作ステップが入ることになります。

 これが繰り返されると現場の面倒がじわじわと増えてきて、結果として修理発生時に過去の記録を確認する作業の手間をかけるよりも、過去の経験や記憶の範囲で発生原因を探してしまい、結果として原因の特定に時間がかかっていることもあったそうです。

 導入した専用のクラウドシステムはスマートフォンにも対応しており、テキストと数字と写真を1つの端末で、現場で、そのまま記録することができるようになりました。タブレットの記入による手間削減だけでなく、記載の間違いや既定値を超えた場合には即時赤枠で表示される機能を活用し、その場で入力ミスとなるヒューマンエラーを即時解消することもできています。

 原因究明も同じスマートフォンで検索することができ、現場から離れることなく原因特定できる場面が増えた結果、設備故障による停止時間が約半分に削減できました。ロボットマシンのケーブル断線故障が月20〜30件発生していた問題に対し、システムを活用した故障履歴の分析と対策により、月間発生率を0に抑制することに成功しました。

 また、設備の設計段階から故障しにくい工夫を取り入れることで、再発防止にも寄与しています。これらの取り組みは、経営課題の解決と現場負担の軽減を両立させた好例といえます。


結論

 モノづくり企業におけるDXの推進は、単なるツール導入やペーパーレス化では解決できない根深い課題を抱えています。特に、経営層と現場の間に存在する優先課題や認識のギャップ、ITリテラシーの差、既存業務フローに根付いた心理的/物理的/構造的障壁が大きなハードルです。

 従業員が自分の仕事に対して真摯に働き、納期/品質の順守を徹底しようとするほど、組織的/構造的な問題が複雑化しやすくなります。現場では多重入力やデータ不整合、経営層ではDX投資の効果が見えづらく後回しにされるといった構造が、DXの定着を難しくしています。

 これらの課題を解決するためのポイントとして、データの定型化、一元管理、シンプルで直感的な入力環境(タブレット活用や選択式/数値式入力など)を整えることを説明しました。これらの打ち手により、経営と現場の双方にメリットのある、本質的なDXの第一歩を踏み出すことができます。

八千代ソリューションズ
COO(Chief Operating Officer 最高執行責任者)
山口修平

クラウド設備管理システム「MENTENA」の事業責任者。大手建設コンサルティング会社にて、国土交通省が管理する社会インフラ事業のシステムエンジニアとして、河川など国土基盤のメンテナンスを支援するシステムのコンサルティングに従事。2019年に新規事業創出の部門にて、「MENTENA」の立ち上げに参画。2024年に事業承継により八千代ソリューションズを設立、人材不足/技術伝承/設備の老朽化などの社会課題に対してサービスを展開中。


⇒連載「設備保全DXの現状と課題」のバックナンバーはこちら

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