現場の業務プロセスを考慮しないままで経営層やマネジメント層がデータ集約を推し進めようとすると、データの多重入力をさせてしまうことがあります。現場は使い慣れた紙やExcelを使い続けて、報告のためだけに専用システムに後で二重入力するのがその典型例です。
設備保全に関する情報管理は、これまで多くの企業で紙やExcelでの記録から始まり、最近では専用の保全管理システムが導入されはじめています。しかしシステムの導入に伴い、「工場現場でのデータ入力」と「デスクに戻ってからの再入力」といった多重入力の問題が表面化しています。
現場では点検やメンテナンスの作業を行いますので、なるべく両手を空けておきたくなります。そのため、ノートPCを設備の前で開いて片手で支えながら片手で入力したりするよりは、紙に手書きでメモを残す方が速い、と考えやすくなります。
現場作業後、入力内容の再確認やデスク上での二重入力が発生することにより、作業効率の低下や人的ミス、二次的な情報の不整合が発生する可能性が高まります。手書きの6と9と0の読み間違い、1と4の見間違い、5W1Hの抜け漏れ、デスクに戻ったときには細かいことを忘れてしまったので適当に入力しておく等々、作業ステップを増やす行為はヒューマンエラーのリスクを高めていきます。
さらに、膨大な点検箇所を見て回るものの、1日1日で見ればまだ事故や故障は起きていません。
始業点検で一通りの確認はできているわけだから、予兆が出たところで故障する前に対策すれば良いだろう、2回に1回の頻度で精度を上げて確認すれば良いだろう、いやいや3回に1回の頻度でも十分……となる可能性も高まります。
そもそも、導入したシステムが最初からデータを完璧に集積/管理できているとも限りません。
追加で測定したい箇所が増えたり、記載の仕方が変わったり、頻度が更新されたりと、システムも現場の業務フローも変わっていきます。保全に関わる人員も1人とは限りません。働き方改革が進む中、日々の通常点検の細部に至るまで、懇切丁寧に伴走できている現場ばかりとは言いにくい状況です。
DXは経営層だけでなく、DXシステムを推進する部門との関係性にも注意が必要です。
全社にまたがるようなDXシステムの推進はデータのつながりを重視するため、それぞれの入力情報を初期に確定しておきたくなります。現場業務に合わせるのもカスタマイズ費用がかかるため、何度も仕様変更をするようであればいつまでたっても定着せず、コストが悪化し、データの例外処理が増え、あらたな不具合のリスクを高めます。
また、全社最適を推進するDX推進部門からすれば、現場要望の個別最適は一定の受け入れはするものの、納期などの影響によって全社最適を優先する力学が強く働きます。
それらの影響により現場の突発停止や生産性悪化が起きたとしても、原因追求の意味は薄く、既に状況は複雑化して対策も打ちにくくなります。結果、一度失敗した現場では、DX推進に対する抵抗が根強くなっていきます。
データを基点に考えると、入力する接点や作業ステップが増えるほどにエラーを起こす確率が高まるわけですから、なるべくシンプルな環境に整えていくことが正解への早道と考えられます。
データの保存場所は個人の紙やデスクトップではなく、サーバやクラウドの集約環境上に直接入るようにすること。
データ入手はなるべく手書きにせず、手数の少ない数字入力や選択形式で、タブレットなどを用いて現場で、直感的に入力できるようにすることで、現場の負担軽減と経営の情報集約の両方のニーズを同時解決していきます。
また、過去のデータを素早く検索できるようにすることで、突発的に発生する問題の解決までの時間を圧縮します。これを実現するには、記録するデータがなるべく定型化されていることが重要となります。
これを踏まえて、入力インタフェースは数字入力や選択肢型を優先的に採用し、フリーテキストの箇所を極力減らしていきます。選択肢型入力、数値入力に寄せておくと、その後の自動化もしやすくなります。
温度、電力、水位などをIoT機器での記録に置き換える際の手間も削減でき、DXの推進がさらに速くなります。
業務のカイゼンや業務プロセス改革によって入力項目が変化するときには、入力画面上で非表示にして、データベース上は残したままにしておきます。1〜3年ほど経過した後にデータの分析にも再利用にも使わないと判断したら、システムから削除をします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Factory Automationの記事ランキング
コーナーリンク