設備保全の基礎と、経営/現場の構造的な課題設備保全DXの現状と課題(4)(2/4 ページ)

» 2025年07月15日 06時00分 公開

経営層と現場の優先課題の差

 当社が行った製造業の設備保全に関与する従業員500人への独自調査では、「DXが進まない理由」として「DXよりも優先すべき他の業務課題がある」「DXの必要性が社内で理解されていない」が上位に挙がりました。

DXが進まない理由 DXが進まない理由[クリックで拡大]出所:八千代ソリューションズ

 リソースやスキルの不足にも一定の回答が得られましたが、決定権/裁量権を持つ人たちにとって、DXよりも優先されている何かがありそうです。

 設備保全に関する意思決定には、経営層と現場で異なる視点や優先順位が存在し、そのギャップが業務全体のパフォーマンスや効率に影響を及ぼすケースがあります。

経営層の視点

 経営層は、一般的に企業全体の利益の最大化を目指します。その利益を担保するための生産性、稼働率の向上、コスト削減に寄与する投資を、その投資効果や経済性を踏まえて決断します。

 設備保全においては、設備の停滞時間や修理コスト、長期的な設備投資効果など、数値的かつ戦略的な側面からの評価が求められます。設備保全は前述の通り付加価値を生みにくく、品質を維持する投資となりやすいので、コスト削減の観点から投資は最小化していく必要性が高まります。

 その結果、最近の原料価格の高騰、物価上昇/値上げ、景況感の悪化などの経営的な影響が大きく、設備保全に対する投資は後回しになりやすくなります。

経営層と現場とのギャップとその影響

 経営層にとってのDXによる成果には段階があります。

 初期段階においてデータ可視化による経営判断の迅速化に寄与し、その後の改革を通じて現場業務改革が進み全体の利益が向上していきます。

 ペーパーレス化がDXだと解釈される場合もあるようですが、単なる紙をデジタル化しただけではコスト削減効果は少なくなりがちです(紙の印刷代が減るくらい)。

 デジタルデータとして保管した過去の記録を検索/分析し、次の打ち手を速くして、業務プロセスそのものを変えていくことで、初めて投資効果が大きくなってくる、と考えた方がよいでしょう。

 DXのツールを導入する際に、経営層は数値データや統計情報の見える化による全体最適化を目指すのに対して、現場は具体的な作業環境や労働条件の改善を求めます。このギャップを放置していると、現場の使い勝手が軽視されて実際の入力作業が多重化するなどの運用上の問題が発生したり、現場の利便性を考慮しすぎてカスタマイズコストの増加や導入遅延を誘発したりします。

 特にDX推進室などが全社最適化を推し進めようとすると、どうしても個別の詳細な業務プロセスまでは考慮しきれず、現場の隠れた個別最適化が起きやすくなります。実際の現場では、記録とは違った互換品で修理を完了してしまっていたり、「部品が壊れたので直した」等の記録として価値の低い情報がバラバラに記録されてしまったりします。

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