A1Aは2021年3月4日、マスカスタマイゼーションにおける製造業の在り方をテーマとしたセミナーを開催した。当日はクラウド型見積もり管理システムを展開するA1Aの代表取締役と、生産管理システムの開発メーカーであるエクスの代表取締役社長が登壇した。
クラウド型見積もり査定システムを開発するA1Aは2021年3月4日、マスカスタマイゼーションにおける製造業の在り方をテーマとしたセミナー「製造業のDX推進 マスカスタマイゼーション実現に向けた生産プロセスの合理化」を開催した。当日はA1A 代表取締役の松原脩平氏と、生産管理システムの開発メーカーであるエクス 代表取締役社長の抱厚志氏が登壇し、パネルディスカッションを行った。
セミナーの冒頭では、マスカスタマイゼーションについての簡単な内容整理を行った。抱氏はマスカスタマイゼーションを、「見込み生産と受注生産の方式を組み合わせ、個別受注生産品を見込み生産品と同程度のQCDまで高めることを目指すもの。顧客視点では、製品価値とUX(ユーザー体験)の最大化を目指すためのものだ」と説明する。
また、抱氏はマスカスタマイゼーション自体は既に1990年代に書籍を通じて注目を集めた概念であり、全く新規の概念ではないとも指摘した。だが、当時はマスカスタマイゼーションを成立させるのに不可欠なデジタル技術が十分に発達しておらず、実現が難しかった。一方で、技術が十分に発展した現在は、「インダストリー4.0」推進の動きに連動する形でマスカスタマイゼーションが改めて注目されており、実現に向けた実際的な取り組みが各所で進んでいる。
「マスカスタマイゼーションはさまざまなサービスを実現可能にする。スニーカーメーカーが顧客の足サイズに合わせて靴を作るサービスや、好きなバイクを1から作るというコンセプトのサービスも実際に出てきている。これらのサービスは顧客の定着化を促す。また、マスカスタマイゼーションは大量生産と比較して、工場敷地面積の削減や生産コストダウンといった効果も期待できる」(抱氏)
マスカスタマイゼーションはB2Cビジネスを展開するメーカーだけでなく、メーカー向けの部品サプライヤーなどB2Bビジネスを行う企業にとっても重要だ。いずれのケースでも、マスカスタマイゼーション実現のためにはエンジニアリングチェーン、デマンドチェーン、サプライチェーンの3つのチェーンを互いに連携させる必要がある。
また、松原氏はマスカスタマイゼーションには「見込み生産」と「受注生産」という本来異なる生産方式の融合が求められるが、これには需要動向などの「予測」が不可欠になると指摘する。
「大量生産で求められたのは分業体制を通じて事前に定めた計画を確実に実行することだった。一方でマスカスタマイゼーションは、予測に応じて臨機応変に生産体制を変化させる。予測するだけでなく、それに柔軟に対応するための体制づくりが必要だ。分業体制の見直しに加えて、営業、設計、調達部門間に加えて仕入れ先とも柔軟にコミュニケーションを取り合わなければならない」(松原氏)
予測の根拠となるデータをステークホルダー間で確実に共有する仕組みづくりも必要になる。その一例として松原氏は、サプライヤーとの窓口である購買部門が、サプライヤーの最新情報など“生きた情報”をデジタルデータで蓄積して、共有する必要性に言及した。
抱氏はPDCAサイクルの“限界性”についても指摘した。周知の通り、PDCAはPlan(計画)、Do(実行)、Check(点検)、Act(実行)の4要素を回すことで継続的な業務継続を目指すという概念である。マスカスタマイゼーションでは「計画」から「実行」へのフェーズ移行における不確実性が、従来の大量生産に比べて増しており、「誰もが唱える上に否定しづらい『ナムアミダブツ』のお経のような存在だったPDCAが、確実ではなくなっている。データドリブンと部門間を越えた全社的な業務最適化を両立させることがマスカスタマイゼーションには求められており、これはPDCAの概念図式ではとらえきれない」(抱氏)と指摘する。
そこで抱氏は、PDCAの“一階層上”に当たるサイクルとして「PDAA」という独自の概念を提示する。「PDAAはPredict(予測)、Decide(決定)、Analysis(分析、Action(行動)の4要素で構成されるサイクルだ。データに基づいた予測を起点に、データドリブンかつ全体最適化が可能なサイクルであり、これがマスカスタマイゼーションには必要なのではないか」(抱氏)。
松原氏はマスカスタマイゼーションに伴う、調達部門での業務負荷の増大を懸念材料として挙げた。業務負荷の軽減には単純な人材増加だけでなく、調達、設計、営業部門に加えてサプライヤーが協力し合うことで、発注情報の標準化など、より根本的な解決策の実現に向けてステークホルダー全体で取り組む必要がある。
抱氏も「社内外で同一の認識やスタンスに基づいた連携が必要になる。各部門が個々に努力するのではなくて、特定の命題に対して全員で努力することが大事になる」と語った。
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