正解がないVUCAの時代に求められるプロダクト開発とは?モノづくり最前線レポート(1/2 ページ)

ベリサーブが開催したオンラインカンファレンスで、『ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略』などの著作がある、Tably 代表取締役の及川卓也氏が「正解がない時代のプロダクト開発」と題する講演を行った。本稿は同講演内容を抜粋してお届けする。

» 2021年01月15日 14時00分 公開
[MONOist]

 2020年12月8〜9日にかけて、ベリサーブは「DX(デジタルトランスフォーメーション)時代に求められるソフトウェア品質」をテーマとするオンラインカンファレンス「ベリサーブ アカデミック イニシアティブ2020」を開催した。イベント初日の基調講演では「正解がない時代のプロダクト開発」と題して、Tably 代表取締役 兼 Technology Enablerの及川卓也氏が発表を行った。

 及川氏は同氏の著作『ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略』を基に、社会の複雑性や不確実性が増すVUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)の時代におけるプロダクト開発を「品質」の観点から解説した。本稿は同講演内容を抜粋した講演レポートである。なお、講演の内容上、同氏の著作と併せて記事を読むと、より理解が深まると思われる。

【訂正】ベリサーブからの申し入れにより、初出時から一部画像を削除、または差し替えました。

モノづくりの“正解”が見えづらい現代で、プロダクト開発が直面する課題

 及川氏のセッションは直近10〜15年の社会変化を総括するところから始まった。多くの人が実感しているところだと思うが、この十数年の間に、ユーザーへのモノの提供の仕方は大きく変わった。音楽業界はその変化が顕著に見て取れる領域だ。カセットやCD販売など売り切り/買い切り型から、聴き放題サービスなど「コンテンツの利用」へ、さらにSNSなども活用した「音楽コンテンツの体験」へとユーザーへの提供価値が変化している。

 企業の立場から見るとこの変化は、収益を上げるためのビジネスモデルの在り方を変える契機となったといえる。それと同時に、ユーザーとの関わり方も変化した。以前の買い切り型のビジネスモデルでは、顧客と企業は一度きりしか接点がなかったが、サブスクリプションモデルやオプション購入などの普及で、複数回にわたる、中長期的な関係が結べるようになった。こうした変化は音楽業界に限ったことではない。

Tablyの及川卓也氏*出典:ベリサーブ

 この変化の背景には、モノに対するニーズの充足という社会的要因もある。日本だけでなく、多くの先進国においては生活に必要となる物理的なモノは、既に社会に十分な量が供給されている。基本的な需要はすでに満たされているのだ。こうした時代においては、デモグラフィック(性別や年齢など人口統計学的属性の顧客分析)だけでは導き出されないようなニーズや課題を発見し、それに見合ったモノやサービスを開発する姿勢が企業に求められる。

 だが、難しいのはインターネットやSNSの普及などによって、ユーザーのニーズが変わりやすくなっている点だ。企業にとっては「これを作ったら売れる」という正解がなくなってしまったので、察知しづらく変わりやすいニーズに合わせてプロダクト開発をしなければならず、その意味で以前よりも開発難易度は上がっている。だからこそ及川氏は、プロダクト開発において「仮説と検証のサイクルをひたすら素早く、何度も繰り返し続けることが必要だ」と話す。定まった特定のニーズに対して一度の開発計画、一度の開発、一度の販売を行う、といった従来のサイクルは成り立たなくなっていることをまず認識しなければならない。

“ITならではの体験”をどう作るか

 ここまでに述べた変化は、プロダクトの開発戦略にも影響を及ぼしている。ユーザーのニーズをより早期に察知するにはどうすればよいか。あるいは、ユーザー自身も気づいていない潜在ニーズを把握するために顧客接点をどう作るか、ユーザーをどう理解するかといったマーケティング戦略も重要になっている。

 また、デジタル技術の進歩によって、ITを活用したプロダクトには単に人間の仕事を代替するのにとどまらず、“ITならではの体験”の提供が求められるようになった、と及川氏は指摘する。「企業側は従来のデジタル戦略を“守りのIT”から“攻めのIT”活用へと変化させる必要がある。プロダクトを通じて得たデータをただ持っているだけでは宝の持ち腐れなので、そこから洞察を得るようなシステムも必要になってきている」(及川氏)。

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