クラウドファンディングで爆売れ中のスピーカーがある。建設会社として180年以上の歴史を誇る鹿島建設が開発した立体音響スピーカー「OPSODIS 1」だ。
クラウドファンディングの大手「GREEN FUNDING」で、現在爆売れ中のスピーカーがある。建設会社として180年以上の歴史を誇る鹿島建設が開発した立体音響スピーカー「OPSODIS 1」だ。
同社が開発した「OPSODIS」という音響技術を搭載した製品だが、2024年4月にリニューアルオープンしたSHIBUYA TSUTAYAにはGREEN FUNDINGのプロジェクト展示ブースが常設され、OPSODIS 1を実際に聴く事ができるようになっている。
クラウドファンディングでは、執筆時点ですでに支援総額は2億5000万円を突破。スピーカー部門での支援1億円超えを、これまでの記録を5分の1近く縮めて、最短の38日で達成した。
筆者もサンプル機をお送りいただき、その効果を確認したところだが、単なるステレオソースを再生しても立体音響として聞こえるという、不思議なスピーカーだ。このOPSODISという技術は、今から20年ほど前に開発発表があったのは知っていたが、実際に製品として聴くのは初めてだった。そもそもなぜ建設会社がこんなことをやっているのか。
そうした謎を解明すべく、鹿島建設の担当者にお話を伺った。今回お話しいただくのは、鹿島建設 OPSODIS事業推進統括部長の村松繁紀氏だ。OPSODIS 製品開発統括部長の安藤達也氏にもご同席いただいた。
――このOPSODISという技術なんですけども、もう開発されて20年ぐらいたつそうですが、そもそもどういう目的で開発されたんでしょうか。
村松繁紀氏(村松氏) 今から22年前に、「鹿島建設の技術者がこんな技術を開発しましたよ」と伝える社内向けの視聴会が開催されまして。そこで今もイギリスのサウサンプトン大学で研究を続けている、武内という発明者が直接説明会をしておりました。そこで私も初めてOPSODISの音を聞きました。
この武内は何をやっていたかというと、もともと鹿島建設の中で、音楽ホールや音にこだわる建物を作る上で、建物を建てる前にいい音になるかどうか、設計図の段階でシミュレーションをして音を確認するという研究をしていました。建物って作るのにお金も時間もかかるものなので、作ってから確認では大変なことになります。ですから、作る前のこうした確認が非常に大事なんですね。
そのためにシミュレーションの結果を、音で聞いてもらう。データを基に作り込んだ音を、本当に実際の現場で聞こえているかのように体験できる技術として、OPSODISを開発しました。
――なるほど。その技術は今もそういう用途で使われ続けているんですか。
村松氏 調布市(東京都)に鹿島建設の技術研究所がありまして、その一室に建物の設計段階で視聴してもらう装置として、OPSODISを搭載したスピーカーがあります。世の中では発売されてないスピーカーです。
――この技術は、今現在もまだ研究開発が続けられていて、ブラッシュアップされているんでしょうか。
村松氏 はい。当時、武内が社会人留学で音響と振動の研究の権威であるイギリスのサウサンプトン大学に留学をしている時に発明したものなのですが、それ以来、サウサンプトン大学と当社研究所による共同研究がずっと続いております。
――研究の方向性としては、もうちょっと精度を高めるという方向なんでしょうか。
村松氏 それが1番の目的ですね。それ以外には、人の動きに追従しながら音の立体効果を最大限発揮するとか、多岐にわたる研究をしております。
――実際に技術の中身の話を伺いたいんですけれども、ステレオ音源なのになんでこう立体で聞こえるのかっていうところが、やっぱり一番多くの人が知りたいポイントじゃないかと思うんです。2020年に貴社が公開した資料によれば、技術要素が4つあって、その中でも位相を90度ずらした音で左右のクロストークを抑えていくっていうものがあるんですけど、その辺りの発想がやっぱりポイントになったわけですか。
村松氏 そうですね。その方式を思い付いたのがやっぱり肝かなと思います。ずれを90度にすることで、例えば右チャンネル用の音は右耳に届く時点で加算されてちゃんと聞こえる一方、左耳には打ち消す方に働いて音をキャンセルします。
通常逆相で打ち消すとなると180度反転した音を使うわけですが、音が出たときに打ち消すのではなく、耳に届いたタイミングで消えていればいいという、そういう発想ですね。
――今回クラウドファンディングで発売されたOPSODIS 1は、3Wayになってますよね。これは周波数帯を区切って処理していくのがポイントなんでしょうか。
村松氏 制御のためには一番効果の高い部分の角度を使う必要があるわけですが、そのために帯域ごとにスピーカーユニットを分けて配置して角度を決めていく、というのがOPSODISの理論です。本当は無限に周波数ごとにユニットを分けて音を出すのが、理想形です。ただそれは机上の空論で、商品化するに当たっては3分割でも十分いい音で楽しめるということで採用しております。
――その片方の耳には片方の音しか聞こえない、みたいなのを空間を通じてやるわけですけど、それだけではヘッドフォンで聞いてるのと同じで立体に聞こえませんよね。立体効果を強めるには、頭部伝達関数を使っていくわけですか。
村松氏 OPSODISが本当に立体効果が強く聞こえるのは、頭部伝達関数のデータベースが非常に重要になっていまして、そのデータ自体が非常に精密に取られています。測定には無響室を使うのですが、サウサンプトン大学のものはその性能が世界最高峰です。だからこそ、精密なデータが取れるわけです。この他社では作れないデータを、当社は20年分蓄積しているのです。
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