――最近のオーディオの世界だと、空間オーディオっていうのが人気になっていて、「Dolby Atmos」とか「360RA」といったフォーマットを対応スピーカーで聴くという流れもあります。ですけれども、OPSODIS 1はソースが2チャンネルでも空間で聞こえてしまうっていうところにポイントがあります。そこはやはり狙ってこの商品にまとめたってことですか。
村松氏 今回の製品は、入力を2チャンネル音源限定にしています。なぜそうしたかというと、今までOPSODIS技術搭載として他社オーディオブランドさんに出していただいてる製品は、HDMIでマルチチャンネルをそのまま入力すると、まず基板で2チャンネル化して、それをOPSODISで処理するという仕組みになっていました。
今回はまず、マルチチャンネルを2チャンネル化するという部分を省いて、その分小型化しました。これで開発スケジュールを短縮でき、コストも圧縮できたということで、低価格化も実現しました。
なぜそこまで思い切ったのかというと、実は2チャンネルだけれど立体情報を持っているよ、というコンテンツがすでに世の中にあふれてるんですね。それらをイヤフォン、ヘッドフォンで立体音響を楽しんで聞いてる方が、大勢いらっしゃいます。サブスクリプションの映画やマルチチャンネルで録音されたライブ音源を、イヤフォン、ヘッドフォンの2チャンネル入力で立体感ある音で楽しめるように、世の中が進化してきているんです。
そういうこともあり、もうマルチチャンネルを受けないと立体が楽しめないという時代ではなくなったと判断しました。OPSODIS 1を購入いただければ、何も苦労せずそのまま立体音響をスピーカーで楽しめる、という製品にしようと決めました。
――実際のOPSODIS 1には、モード1と2が搭載されています。これは処理として何が違うんでしょうか。
村松氏 モード1がナロウ、モード2がワイドと説明をしてますが、実はモード1の方が、「ここにあるべき音がここで聞こえる」という定位が非常にしっかりしているモードです。
それに対してモード2は、それを少しぼやかすことによって、ちょっと広がった感覚になるということで、ナローとワイドと、分かりやすくそういう名前を付けています。実際にはもっと定位をしっかり作り込んだバージョンもいっぱい作ったのですけれども、一般視聴者層にはこのぐらいが好まれるであろうとわれわれが判断したものを、2つ選びました。
もっと定位がしっかりしたバージョンにすることも可能で、そちらはプロフェッショナル向けに提供しても喜ばれるかな、などと考えているところです。
――もう1つのポイントは、理屈としては1人で聞く場合はそうだろうなと思うところなんですが、これ、多人数だったら、みんなそれぞれがちょっとずつ聴く位置が変わるってことですよね。この場合でも、立体に聞こえるんでしょうか。
村松氏 そうですね。大体、OPSODIS 1から正面の人に向かって、扇形90度ぐらいのエリアに入ってる人は立体に聞こえるかなと思います。スピーカーに近づくとエリアは狭くなるので、1人だけで立体に楽しめる。そこから離れるとエリアが拡がるので、2人並んでも、もう少し離れると3人でも立体感があるね、となるはずです。でも効果はだんだん薄れていきますから、1人で一番近くで聞くのが、もっとも立体感を楽しめるかなと思います。
――OPSODIS 1の構造なんですけれども、ツイーターが中央寄りで、ウーファーが一番外側に配置されてますよね。あれって普通のスピーカーの並びとは逆のような気がするんですけど。
村松氏 OPSODISっていう名前自体が、「Optimal Source Distribution(最適音源配置)」という英語の頭文字を取ってまして、 そのスピーカーユニットの配置が非常に重要なんですね。
一般的にステレオスピーカーは、耳から60度の位置に置いて聴くのが最適だとされています。ですがこれは、いろんな周波数のところに位相制御効果が悪い部分が混ざりながら、耳まで届くことになります。
高音域が1番内側にあるという場合、 聞いてる人の耳からスピーカーまでの角度が非常に狭いところにツイーターがあることになりますよね。それが重要で、OPSODISの場合は、位相制御効果の高いところだけを使ったら一番よいのではないか、という発想をしています。そのためには高音域は非常に狭いところから音が出るのが効果が高いと。
そして、低音に行くに従い制御角度はだんだん広がっていくので、その曲線に合わせて順次中音域、低音域といった具合にスピーカーを配置しております。
――特に指向性が感じやすい高域ほど、キッチリした位相制御のためにスピーカー自体は近接して置いた方が、制御しやすいという理屈ですね。実際ボディーもかなりブレのないフレームですもんね。フレームはアルミの押出成形でしたか。
村松氏 はい。最初の試作はアルミの3mm厚で作ったんですけども、いろいろ検討を重ねて、やっぱり剛性をもっと上げるべきだということで、今は厚み5mmになっています。こんなスピーカー、他には見たことないんじゃないかと思っていただけるぐらいの、すごい筐体に仕上げました。
――横幅は大体38cmぐらいですけど、この全長というのは、いわゆるPC向けサウンドバーのサイズ感を参考にしたんでしょうか。
村松氏 そうではないですね。OPSODISの技術を搭載すると横長になるのは必然なのですが、その中での最小サイズを目指しました。強度も保ちつつ、ツイーターが物理的にこれ以上くっつかないというところまで寄せる。そうした条件を前提に計算していくことで、3Wayでやる限りは本当にこれ以上小さくできない、という長さにしています。
――なるほど。もう原理上はこれが最小と。
村松氏 そうですね。今は周波数を3分割してこの品質を保っているんですけども、じゃあ2分割はダメなのかというと、できることはできます。ちょっと効果が落ちてしまうけれど、もっと小さい方がいいというお客さまがたくさんいらっしゃるようであれば、 そういう商品開発も、技術上はあり得ますね。
実は、20年もOPSODISの研究をやっておりますので、まだ発売していないいろいろなバージョンの試作機がすでにいっぱいあります。
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