以上、ミッションの流れを一通り見てきたが、小惑星へのランデブー、サンプル採取、地球への帰還、再突入カプセルの投下・回収といったプロセスの全てを成功させないと、「小惑星の物質を得る」という目的が達成できない。ここに、サンプルリターン探査特有の難しさがある。
サンプルリターンではない探査機であれば、各ミッションは並列的であり、例えばある観測装置が壊れたとしても、別の観測装置によるミッションには影響がなく、成果を得ることができる。ところがサンプルリターンは直列的であり、途中のミッションのどれか1つでも失敗すれば、サンプルを得ることはできなくなる。
しかも月や火星と違い、イトカワや1999JU3のような小惑星は、事前に誰も探査したことがなく、行くまで詳しい状態が分からないという難しさも加わる。初代があれだけのトラブルに見舞われながら、何とかミッションを完遂できたのは、まさに「奇跡」としか言いようがない。
それだけに帰還後、映画が何本もできるなど世間が盛り上がったわけだが、あれは結果的に美談になっただけであり、最初から狙ってできるようなものでは当然ない。「はやぶさ2」には初代での経験を生かした改良が施されており、津田助教も「われわれとしては、あんなにドラマチックにしたくないと思っている。失敗するような計画は1つも立てていない」と冷静だ。
しかし、それでも何らかのトラブルは起きるだろう、と筆者は見ている。小惑星サンプルリターンはそれだけ難易度が高い挑戦であり、日本もまだ1回成功しただけにすぎないからだ。「はやぶさ2」のミッションでも、得るべき経験は多いだろう。
世間というものは何かと極端になりがちだ。失敗でもしたら「税金の無駄!」などと批判されるかもしれない。だが「世界一への挑戦」のためにリスクを取った以上、失敗する可能性があるのは当然だし、たとえ失敗したとしても、挑戦を諦めない限り、得られた経験は無駄にはならない。成功するにしろ失敗するにしろ、長期的な視野に立って、冷静な評価を心掛けたいところだ。
大塚 実(おおつか みのる)
PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「人工衛星の“なぜ”を科学する」(アーク出版)、「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min
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