小惑星探査機「はやぶさ2」には、さまざまな装置が搭載されている。今回は、隕石の代わりに銅製の「衝突体」を小惑星の表面に衝突させることで、人工のクレーターを作り出す新開発の装置「インパクタ」についてだ。
小惑星探査機「はやぶさ2」の設計は、初代はやぶさ(以下、初代)がベースとなっている。そのため、「はやぶさ2」に搭載される装置は、前回「もう『チリ』なんて言わせない、はやぶさ2ならグラム単位も!?」で紹介した「サンプラー(試料採取装置)」のように、初代で搭載されたものの改良版であることが多い。
しかし、全てがそうというわけではない。搭載される装置の中には、全くの新規で開発されているものもある。その1つが、今回取り上げる「インパクタ(衝突装置)」だ。
インパクタの開発を担当しているのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)/月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)の佐伯孝尚助教。インパクタとは一体どのような装置なのか、そして、何が期待できるものなのか、佐伯助教に詳しく聞いた。
インパクタ(SCI:Small Carry-on Impactor)は、小惑星の表面に人工のクレーターを作ることを目的として開発された装置だ。直径30cm、高さ30cmの円筒形をしており、質量は18kgほど。この装置は「はやぶさ2」の底面(−Z面)に設置され、使用時には本体から分離される。
月面などにある“天然”のクレーターは、隕石が地表にぶつかることで形成されるが、このインパクタには、隕石の代わりとなる銅製の衝突体が搭載されている。初代のサンプラーには、表面物質を飛び散らせるために“弾丸”を発射する「プロジェクタ(射出装置)」が搭載されていたが、インパクタはこれよりもはるかに強力。衝突体の重さは約2kg。これを秒速2km以上のスピードで発射し、小惑星の表面に衝突させることで、直径数メートルの人工クレーターを作り出すことが期待されている。
なぜ、クレーターを作る必要があるのか? その目的の1つが、地下物質の採取である。小惑星の表面物質は、太陽風によって“風化”することが知られている(注)。はやぶさシリーズのサンプラーでは、地表の浅い部分の物質しか得ることができない。しかし、インパクタで作ったばかりのクレーターの内部にタッチダウンすることができれば、風化前の地下物質を採取可能である。表面物質と地下物質を比較すれば、新たな知見が得られることになるだろう。
さらにもう1つ、人工クレーターの観測という目的もある。表面に露出した地下物質を観測したり、形成されたクレーターの大きさや深さ、そしてイジェクタ(衝突体をぶつけたときに飛び散る粒子)の角度などを調べたりすることで、小惑星の構成物質や内部構造などを推測できる。なお、イジェクタの撮影のために、小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS(イカロス)」で使用された分離カメラ「DCAM」の改良バージョンが搭載される予定である。
初代では、小惑星について調べる「理学」と、探査技術を実証する「工学」という2つの使命が課せられていた。これは「はやぶさ2」も同様であり、インパクタそのものにも、上記の理学的な目的に加え、「衝突体を天体に激突させる技術の実証」という工学的な狙いもある。これを「はやぶさ2」で実証できれば、はやぶさシリーズの後継機はもちろんのこと、その他の探査機にも応用が可能だろう。
衝突体の実例としては、米国の探査機「Deep Impact」が有名だが、日本の探査機で実施したことはまだない。過去、日本には「LUNAR-A」という月探査計画があり、月面に撃ち込む槍型の「ペネトレータ」と呼ばれる装置を開発していた。しかし、この開発が難航して遅延を重ね、2007年に計画自体がキャンセルされてしまった。その後もペネトレータ単体での開発は続けられ、完成のめども立ったのだが……、残念ながら現時点で実際に宇宙で使われる計画はない。
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