小惑星からのサンプルリターンが「はやぶさ」シリーズのミッションだ。小惑星探査機「はやぶさ2」では、初代はやぶさに採用されたサンプラー(試料採取装置)をベースに、さらなる改良がなされている。【後編】では、その変更点を中心に見ていくことにしよう。
前編「小惑星イトカワの微粒子はこうやって採取された!」では、初代はやぶさ(以下、初代)の「サンプラー(試料採取装置)」について、基本的な仕組みを見てきた。
後編となる今回は、後継機「はやぶさ2」のサンプラーを紹介する。前回同様、サンプラーの開発を担当する宇宙航空研究開発機構(JAXA)/月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)の澤田弘崇氏のお話を交えながら、初代での経験を生かし、何がどのように変わったのか。その変更点を中心に見ていくことにしよう。
まずは、「サンプラーホーン」についてだ。
「はやぶさ2」のサンプル採取方法は、弾丸(プロジェクタイル)を小惑星の表面に撃ち込んで、その衝撃で舞い上がった砂や岩の破片を回収する方式(弾丸方式)を採用する。前回説明した通り、基本的には初代で採用された仕組みを踏襲している。そのことは、機体のCGイラストからも見て取れる。初代と比べてみても、サンプラーホーンの外観などに大きな違いは見られない。
だが、全く同じかというとそうではない。実は外側からは見えない、内部の機構が少しだけ変わっている。「はやぶさ2」では、ホーン先端部の内側に、初代にはなかった小さな“返し”が追加されているのだ。
この“返し”を構成するのが、幅2mm、長さ4mmほどの薄板状のツメだ。これがホーン先端の内側にびっしりと並べられている。タッチダウンの際、これらのツメが小惑星の表面にザクッとめり込み、探査機が上昇する勢いを利用して、引っかけた砂粒や小石を持ち上げ、回収するというわけだ。
ツメで持ち上げられた粒子が上昇するスピードは、高速で撃ち込まれた弾丸の衝撃で飛び上がる粒子よりも遅いため、すぐにサンプルキャッチャーの内部に回収できるわけではない。ツメで持ち上げられた粒子は、探査機の上昇とともにゆっくりと上昇するので、上空で探査機をいったん停止させ、サンプルキャッチャーの内部に取り込む必要がある。
残念ながら、小惑星の表面が固い岩だった場合は、このツメは役に立たない。しかし、初代が訪れたイトカワのような極めて小さな小惑星にさえ、砂の集まった“海”があった。「はやぶさ2」が向かう1999JU3にも同じような“海”が存在する可能性は十分にある。この小さなツメが大きな成果を上げるかもしれない。
1回の弾丸の発射で、最低でも100mg程度のサンプル採取が期待されているのだが、この“返し”がきちんと機能すれば、この目標を容易にクリアできる可能性がある。さらに、回収できた粒子が数粒ともなれば、「採取量を1ケタ上げられるかもしれない」(澤田氏)という。特に、狙っているのは「5mm程度の粒」ということで、弾丸による採取に比べ、ツメによる採取は“大物狙い”だといえる。
さらに見逃せないのが、このツメ方式にはリスクがほとんどないということだ。機体重量の増加は少なく、弾丸方式によるサンプル採取に対しても、与える影響は全くない。仮に失敗したとしても、そもそも弾丸方式で採取できるのだから問題はない。
初代で採用された弾丸方式と、新たなツメ方式を併用することで、サンプル採取量の増加が見込めるのは当然ながら、冗長性が確保されミッションの成功率が向上する点は大きなメリットといえる。
初代では、2回のタッチダウンが試みられた。1回目は降下中に障害物を検出したためにシーケンスは中断、結果として着陸したものの、弾丸は発射されなかった。また、2回目はコマンドの中に弾丸発射を禁止する命令が紛れ込んでいたため、タッチダウンそのものは完璧にこなしたものの、実際に弾丸は打ち込まれなかったとみられている(実際、μmレベルの微粒子しか見つからなかったことからも、これは確実視されている)。
2回目の失敗については、イトカワでの滞在期間が短く、運用に余裕がなかったことが遠因として考えられるが、「はやぶさ2」の滞在期間は約1年半と長い。初代のようなミスは起きないだろうが、何らかの原因により、弾丸が発射されないケースを想定することは重要だ。コストも重量もかけず、独創的なアイデアで問題を解決するというのは、いかにも“はやぶさ的”で興味深いところだ。
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