2010年6月の「はやぶさ」の帰還に続き、日本中を興奮の渦に巻き込んだ「はやぶさ2」の小惑星「リュウグウ」へのタッチダウン。成功の裏には、次々と起こる問題に的確に対処したプロジェクトチームの対応があった。打ち上げ前からはやぶさ2の取材を続けてきた大塚実氏が解説する。
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「本日、人類の手が、新しい小さな星に届いた」――小惑星探査機「はやぶさ2」がタッチダウンに成功した日、プロジェクトマネージャの津田雄一氏はそう宣言した。ついに、本当に「ついに」としか言いようがないのだが、初号機「はやぶさ」での「悪夢」※1)から13年。ずっと背負い続けてきた重荷を、やっと肩から降ろせた瞬間だった。
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宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、小惑星リュウグウに対する1回目のタッチダウン運用を実施。2月22日7時29分ごろ、予定より30分も早い順調さでリュウグウの地表に到達すると、予定通り、弾丸を発射することに成功した。これは、初号機ではなし得なかった快挙。太陽系探査において、歴史的な1日になったことは間違いない。
運用中、いつもは感情を抑えているように見える津田氏も、このときばかりは喜びを爆発させた。探査機から届いた電波のドップラーにより、降下から上昇に転じたことが分かると、二人三脚で歩んできたプロジェクトエンジニアの佐伯孝尚氏と抱き合って喜んだ。
津田氏がこれほど喜んだのには理由があった。リュウグウへのタッチダウンは、それだけ難易度が高いチャレンジだったのだ。
今回の運用で求められた着陸精度は±3m。しかし、もともと探査機で想定されていたのは±50mで、1桁も精度を上げる必要があった。津田氏の表現を借りると、野球場の中ならどこでも降りてよかったはずが、後になってマウンド以外はダメと言われたような状況である。
はやぶさ初号機が探査した小惑星イトカワには、「ミューゼスの海」と呼ばれる平地が存在していた。リュウグウにも、同じように着陸しやすい場所がどこかにあると考えられていたのだが、小惑星に到着後、地表をいくら詳しく観測してみても、どこも大きな岩だらけで、着陸に適した地域など1つも見当たらなかった。
その中でも比較的マシだったのが、今回挑戦した「L08-E1」と名付けられたエリアだ。ただ、ここは平たんではあるものの、幅が6mほどしかなかった。この狭い領域を外してしまうと、探査機本体や太陽電池パドルが岩にぶつかってしまい、損傷する恐れがある。地表まで降下するしかないサンプル採取は、本質的にリスクが高いミッションなのだ。
地上の走行ロボットであれば、±3mの精度はそう難しいことではない。しかし当然ながら地球以外の天体でGPSは使えないし、軌道は弱いながら重力の影響も受ける。何より地球から3億kmも離れており、電波の往復に40分近くもかかってしまうため、地上からの遠隔操作では間に合わない。最終フェーズでは、完全自律にするしかない。
この高難度のミッションを成功させるため、今回投入されたのが、はやぶさ2に搭載された新機能「ピンポイントタッチダウン」である。
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