これまでのところ順調にミッションをこなしている小惑星探査機「はやぶさ2」。小惑星リュウグウまでの往路、そしてサンプルを持ち帰るための帰路で重要な役割を果たすのがイオンエンジンだ。このイオンエンジンの仕組みについて解説する。
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「はやぶさ」と言えばイオンエンジン――初号機の活躍で、そう記憶している人も多いかもしれない。イオンエンジンは、燃費の良さが特徴のロケットエンジンである。重量わずか500〜600kgの小型の探査機が、小惑星まで行って戻って来られる。はやぶさシリーズのそんな離れ業は、イオンエンジン無しにはとても考えられなかった。
ロケットエンジンは、大きく「化学推進」と「電気推進」に分けられる。詳しくは後述するが、イオンエンジンは電気推進の一種。一般的な化学推進のエンジンに比べると、燃費は10倍程度も違い、これは搭載する推進剤を10分の1に減らせることを意味する。もしはやぶさが化学推進であれば、重量は1トンを超えてしまっただろう。
はやぶさ初号機の打ち上げに使われたのは、当時のM-Vロケット。強力な大型ロケットであれば、探査機が重くても問題はないが、非力なM-Vで地球圏を脱出させるには、重量は500kgクラスが限界。はやぶさシリーズのイオンエンジン「μ10」は、M-Vという制約の中で、より遠くまで行くのに必須の技術として開発された経緯がある。
はやぶさ2にも、初号機と同じμ10が搭載されているのだが、何が変わったのか。はやぶさ2でイオンエンジンの開発を担当したJAXA宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 准教授の西山和孝氏に話を聞いた。
まずは、イオンエンジンがどうやって推力を得ているのか、原理から説明しておこう。
ロケットエンジンは基本的に、何らかの物質を高速に放出して、その反動によって推力を得ている。例えば、風船を膨らませて手を離すと勢いよく飛んでいくが、原理はこれと同じだ。このとき、噴射するガスの流量を増やせば推力は大きくなるし、ガスの流れを速くすれば燃費は良くなる。
化学推進は、燃焼などの化学反応によって、高温・高圧のガスを生成、ノズルで流れを整えて噴射する方式だ。大きな推力を得やすいため、打ち上げロケットで使われるエンジンは全て化学推進である。推進剤の違いにより、液体ロケットや固体ロケットといった種類はあるものの、いずれも化学推進であることに変わりは無い。
ただ、化学反応で得られるエネルギーには限界があるため、化学推進の性能はそれが上限となる。ロケットエンジンの燃費は、比推力(単位は秒)という指標で表される。人工衛星や探査機では、ヒドラジン系の燃料を使用する化学推進が搭載されることが多いが、その比推力は大体300秒程度だ。
一方、電気推進は、外部から電力を使ってエネルギーを与えるため、そうした限界がない。もちろん、探査機で利用できる電力には制約があるため、現実的にはそれが上限とはなるものの、電力さえ用意できるのであれば、比推力をどんどん上げることができる。μ10の比推力は3000秒と、化学推進と比べて桁が1つ違う。
電気推進にも幾つか種類があるのだが、イオンエンジンはその中でも最も比推力が高い方式である。イオンエンジンでは、ガスを噴射するために、静電力(クーロン力)を利用する。中性ガスだと静電力が働かないため、エンジン内でまずガスをプラズマ化。そこに電界を与えると、イオンが加速され、イオンビームとして放出されるというわけだ。
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