2020年12月に地球へ帰還し、小惑星「リュウグウ」からのサンプルリターンというミッションを完遂した小惑星探査機「はやぶさ2」。しかし、はやぶさ2の旅はまだ終わっていない。現在も「拡張ミッション」となる2つの小惑星の探査に向けて旅を続けているところだ。果たしてはやぶさ2は、追加で10年以上もの長旅に耐えられるのだろうか。
小惑星探査機「はやぶさ2」は、2020年12月に地球へ帰還した。しかし、プロジェクトはそれで終わりではなく、現在、新たな目的地に向かい、旅を続けているところだ。小惑星からのサンプルリターンという本来のミッションは既に完了しており、区別のため、これは「拡張ミッション」と呼ばれている。
サンプル分析の初期成果も出そろい、プロジェクト全体の評価が完了したことで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2022年6月末をもって、はやぶさ2プロジェクトを正式に解散。拡張ミッションには「はやぶさ2#」という愛称が与えられ、同年7月からは、規模を縮小した新体制での活動が本格的に始まった。
新チームの指揮は引き続き、プロジェクトマネージャであった津田雄一氏が執る。そして津田氏から、拡張ミッションでの運用を担当する“新機長”として指命されたのが、JAXA 宇宙科学研究所 主任研究開発員の三桝裕也氏。拡張ミッションではどんなことをやっていくのか、三桝氏に詳しく話を聞いた。
拡張ミッションについては、本連載の前回記事でも紹介している。目的地の選定の経緯など、詳細についてはそちらを参照してほしいが、ここで軽くおさらいしておこう。
拡張ミッションとは、本来のミッションを終えた探査機に、追加で与えられるミッションのことである。小惑星リュウグウへの往復は長旅だったとはいえ、はやぶさ2はいまだ軌道上に健在。まだ余力を残しており、これを活用しない手はない。
拡張ミッションの目的地として選ばれたのは、直径わずか30m程度と見られている小惑星「1998 KY26」。これほど小さな天体に接近し、直接観測した例はまだ無く、一体どんな表情を持つ小惑星なのか、非常に興味深いところだ。
1998 KY26の大きな特徴は、“1日”がわずか10分程度と、非常に高速に自転していることだ。これほど速いと、天体の表面では重力よりも遠心力の方が大きくなってしまう。つまり、その場所に降り立ったとしても、すぐにフワフワと浮き上がってしまうという、不思議な世界なのだ。
そのため、ツルツルした一枚岩になっている可能性もあるが、実際に行ってみなければ、どうなっているのか分からない。もしかしたら、岩塊が集積したラブルパイル天体かもしれない。はやぶさ2はここに2031年7月に到着する予定なので、答え合わせはそのときにできるだろう。
1998 KY26への到着はかなり先の話であるが、その前の注目イベントとしては、小惑星「2001 CC21」への接近がある。2001 CC21も素性が良く分かっていない小惑星で、はやぶさ2は2026年7月にすれ違い、このときに観測することを狙っている。拡張ミッションは、2つの天体が探査できるという、とても“欲張り”なミッションなのだ。
ちなみに本連載では、10年近く前に、当時まだプロジェクトエンジニアであった津田氏を取材し、拡張ミッションについても話を伺っていた。
「もし推進剤が余っていれば、別の小惑星やラグランジュ点に行ける可能性がある。そうなると面白いと思うし、ぜひやりたい」と語っていた津田氏が、その後プロマネとして見事プロジェクトを成功させ、本当に拡張ミッションまで実現したというのは、あらためて振り返ってみても感慨深い。
筆者も当時、「できればいいな」とは思っていたものの、正直なところ、ここまで完璧に成功するとは予想していなかった。はやぶさ2には、拡張ミッションという“ご褒美”を、存分に楽しんでもらいたい。
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