今も働き続ける「はやぶさ2」、プラス10年以上もの長旅に耐えられるのか〜拡張ミッション【前編】〜次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(20)(3/4 ページ)

» 2022年07月29日 07時00分 公開
[大塚実MONOist]

推進剤はどのくらい残せるか

 もう1つ注意したいのは、推進剤の残量である。地球帰還時、つまり拡張ミッションがスタートした時点での残量は、イオンエンジンのキセノンが52.9%(35.2kg)、化学推進系(RCS)のヒドラジン/NTOが29.2%(13.9kg)だった。イオンエンジンが半分以上も残っていたのに対し、RCSは3割弱と、やや心もとない。

 探査機にとって、RCSの“ガス欠”は、ほとんど「ミッションの終了」を意味する。推進剤の消費量をいかに抑えられるか。それが、延命のための大きなカギとなってくる。

 RCSの用途としては、主に以下の2つがある。

  • (1)軌道制御用
  • (2)アンローディング用

 これらのうち(1)は分かりやすいだろう。宇宙空間で軌道を変えるための噴射だ。はやぶさ2の軌道制御は、基本的には高効率なイオンエンジンを使うのだが、小惑星近傍での運用などでは、より推力の大きいRCSが必要になる。拡張ミッションでも、1998 KY26に到着してからは、RCSの出番になるだろう。

 (2)のアンローディングは、リアクションホイールの運用で必須になる作業だ。リアクションホイールは、探査機本体との間で角運動量を交換することで、姿勢を制御している。角運動量は系全体で保存されるため、リアクションホイールの回転数を変えると探査機が回り始め、回転数を元に戻すと止まる。

 基本的に、回転数を変えなければ、探査機は止まったままになるはずなのだが、軌道上には、太陽光圧という外乱が存在する。これが探査機を回転させるトルクとして作用するため、姿勢を維持するには、リアクションホイールによって回転数を増加または減少させて、外乱を吸収する必要がある。

 しかし、モーターの回転数はいくらでも上げられるものではないので、範囲を超えそうになったときには、それを下げる必要がある。これが、RCSを使ったアンローディングだ。

アンローディングのイメージ アンローディングのイメージ。RCSの噴射によりトルクを与え、回転数の許容範囲をキープする[クリックで拡大]

 拡張ミッションでは、アンローディングによる消費量を抑えるため、太陽光圧を利用した3軸制御を行っているという。太陽光圧は本来、厄介な外乱なのだが、これを逆手に取り、うまく制御に活用。これにより、消費量の削減に成功した。

 主ミッションでも、太陽光圧を利用したOWC運用(ソーラーセイルモード)を行っていた。これは、OWC(One Wheel Control)という名前が意味するように、Z軸の1台だけを使って、Z軸の向きを維持するという技術だった。これにより、リアクションホイールを温存し、推進剤の消費量も抑えることができた。

 しかし、この状態のままイオンエンジンを動かすにはリスクがあるため、運転時にはOWCから3軸制御へと戻す必要がある。このモード変更には結局、RCSの噴射が伴うため、頻度が多いと、逆に消費量が増えてしまいかねない。

 前述のように、リアクションホイールは4台とも健全。それならば、リアクションホイールの温存よりも、推進剤の消費量削減をより重視し、3軸制御を維持した方が良いだろう、というのが現在のスタンスになっているそうだ。

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