ロボットに生成AIを適用すると何ができるのか、課題は何なのか生成AIで変わるロボット制御(前編)(1/3 ページ)

ロボット制御における生成AIの活用に焦点を当て、前後編に分けて解説する。前編では、生成AIの概要とロボット制御への影響について解説し、ROSにおける生成AI活用の現状について述べる。

» 2025年02月27日 07時30分 公開
[富士ソフトMONOist]

1.はじめに

 2022年11月にOpenAIがChatGPTを公開して以来、LLM(大規模言語モデル)をはじめとした生成AI(人工知能)が世間の注目を集め、その成長は著しい。富士キメラ総研によれば、2024年の大規模言語モデルの国内市場は2023年度の3.3倍となる400億円が見込まれ、2028年度には15.3倍の1840億円になると予測されている。※1)生成AIの応用範囲は非常に広く、2023年にMONOistで富士ソフトのAI・ロボット開発 R&Dチームが執筆した連載「ROSの進化とデジタルツインの可能性」でも、AIによるロボット制御でのLLMの利用に注目が集まり始めていることに触れたが、現在はさらに大きな発展を遂げている。

※1)富士キメラ総研:2025 生成AI/LLMで飛躍するAI市場総調査

 本稿では、ロボット制御における生成AIの活用に焦点を当て、前後編に分けて解説する。前編では、生成AIの概要とロボット制御への影響について解説し、ROSにおける生成AIの活用の現状について述べる。

2.これまでのロボット制御と生成AIの影響

2.1 これまでのロボット制御とその課題

 これまでのロボット制御にはさまざまな方法が用いられてきた。ティーチングペンダント※2)などを使用して、人間がロボットの関節の角度を指定したりロボットを手動で動かしたりして、その動作を記憶させる「ティーチング」や、事前に設定されたプログラムに基づいて動作させる方法などが存在する。例えば、工場の製造ラインでは、溶接用のアームロボットに作業内容を記録して、同一の動作を正確に繰り返すことで高い生産効率を実現している。この方法は、繰り返しの作業や安定した生産環境では有効となっている。

※2)ティーチングペンダント:プログラムの作成やティーチング作業のために入力、操作する装置

デンソーウェーブのティーチングペンダント デンソーウェーブのティーチングペンダント 出所:デンソーウェーブ

 しかし現在は、少品種大量生産から多品種少量生産の時代になり、製品サイクルが短期化している。現場の変化が早くなり、新しい作業内容の追加や作業環境の変更によって、随時、的確なロボットの動きの微調整や再設定が必要になるため、従来のロボット制御の手法は適応の柔軟性に欠けることや、高度なプログラミングスキルやロボット制御の知識が要求される専門性の高さなどが課題として挙げられている。

 こういった課題の解決に向けて、AI技術の活用も進んでいる。センサーからの情報を基に機械学習を用いて物体のピッキングに最適な把持位置を算出して柔軟に把持を行う方法や、強化学習を通じてロボット自身が動作の試行錯誤を行う方法だ。そういった中、LLMなどの生成AIによるロボット制御にも注目が集まっている。では、ロボット制御への生成AIの影響についてみていこう。

2.2 生成AIとその応用

 まずは生成AIの概要について説明する。生成AIは、人間から与えられた入力に基づいて文章や画像といった新しいコンテンツを作り出すことができるAIの一種で、一般的に、ChatGPTのような文章生成が有名だ。インターネット上の膨大な文章データを学習し、ユーザーから与えられた文章から要約や質問応答のような文章生成を可能とする。

LLMを用いてロボットの説明を出力 LLMを用いてロボットの説明を出力[クリックで拡大]

 従来のAIと異なり、生成AIは特別なスキルがなくても利用でき、汎用的な使い方ができる点が特徴だ。従来のAIは、人間が用意した学習データからパターンを学習し予測を行うが、精度を上げるためにはパラメーター調整や学習の工夫といったAIの専門知識が必要だった。ChatGPTは、一般ユーザーでも簡単に、より人間らしい回答を得ることができる。その結果として話題となり、瞬く間にユーザーが増加して生成AIの普及に大きく貢献した。

 現在は、2010年代の深層学習による第3次AIブームのように第4次AIブームとなり、NVIDIAやGoogleなどの大企業が生成AIの研究を前面に出し、ビジネスの場でも生成AIの活用が広がっている。筆者が所属する富士ソフトでも生成AIの取り組みを行っており、社内でLLMを活用するための制度整備や最新技術の動向調査を行っている。

富士ソフトはLLMの導入をサポートするサービスを提供している 富士ソフトはLLMの導入をサポートするサービスを提供している[クリックでWebサイトへ移動]

 生成AIの活用は多様な分野で進んでおり、その利用方法は多岐にわたる。例えば、ソースコードの修正に生成AIを使うことでバグの早期発見やコードの自動補完を行い、ソフトウェアの開発期間を短縮することが可能だ。また、最近発表された「NVIDIA Cosmos」のように文章などから現実に近い学習用のデータを生成し、AI開発を効率化することも可能だ。このような応用の一環として、ロボット制御への活用も進んでいる。

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