今岡通博氏による、組み込み開発に新しく関わることになった読者に向けた組み込み用語解説の連載コラム。第14回は、数学が苦手になる原因の一つである微分積分のうち微分について、コンデンサーを用いた実験回路を使ってその本質に迫る。
皆さんは微分積分は得意でしょうか。筆者は一応進学校に入ったのですが、1年生の数学でこの微分積分あたりでついていけなくなりました。微分積分は今まで見たことのない記号のオンパレードでして、それで完全にノックアウトでした。結局理系の志望校には入れず文系私立大学に進学しました。
その学生のころマイコン開発のアルバイトをしていたのですが、システム構成としては「AY-3-8910」というPSG(Programmable Sound Generator)を使って地方自治体向けにミュージックサイレンを開発するというものでした。もちろん使ったマイコンはみんな大好き「Z80」です。で、そのアルバイトの最中、AY-3-8910の出力は矩形波なのにアンプを介して出力される波形はとげとげしいスパイクが上下に出ています。これはアンプ回路の中にカップリングコンデンサーが入っているからです。そのコンデンサーのおかげで波形が微分されていることにその時気付いたのか、後日理解したのかは定かではありませんが、高校1年生のときに落ちこぼれてしまった微分にリベンジできた気になりました。
さて、筆者のように数学は苦手という読者に向けて、数式を使わずにコンデンサー1つで微分の本質に迫ってみたいと思います。
そもそも微分積分は、17世紀にニュートンら(ライプニッツという説もあり、現在数学で用いられているインテグラルはライプニッツが使っていたものらしい)によって確立された理論です。そのおかげで日常で起こり得る誰かが打った打球の軌道から、惑星の公転に至るまで微分積分が理論の基礎になっています。
その当時、微分積分の理論を確立するためには、物理現象を確かめるさまざまな手作りあるいは特注の実験設備が必要だったことは想像に難くありません。今回は、その微分積分理論のうち微分について、コンデンサーと1万円台のオシロスコープを使ってその本質に迫ります。
コンデンサーは、電気を通さない物質(誘電体)を2枚の金属板(電極)で挟み込んだ電子部品です。電気を蓄えたり、直流成分を通さなかったりといった働きをします。詳しくは本連載第11回をご覧ください。
微分とは、簡単に言うと「あるものが、ほんの少しだけ変化したときに、もう一つのものがどのくらい変化するか」を考えることです。もっと砕いて言えば、「一瞬の変化の速さ」や「ある地点での傾き」を知るための道具だと思ってください。
以下に挙げる幾つかの例で考えてみましょう。
あなたがクルマを運転しているとします。速度計を見ると、常にスピードが表示されていますよね。でも、そのスピードは、ほんの一瞬一瞬で変化しています。
例えば、アクセルを踏んだ瞬間、スピードはぐっと上がります。この「ぐっと上がる速さ」を知りたいとき、微分を使います。
別の言い方をすれば、「今この瞬間、あなたのクルマのスピードがどれくらいの勢いで増えているか(あるいは減っているか)」を知るのが微分です。全体の移動距離ではなく、その一瞬の速さに注目するのがポイントです。
目の前に坂道があると想像してください。坂道は、場所によって傾きが違うことがあります。ある地点では緩やかで、別の地点では急になっているかもしれません。
あなたが坂道を登っていて、「今立っているこの地点の坂の傾きはどれくらいだろう?」ということを知りたいとします。坂全体の高さや長さではなく、ピンポイントでその地点の傾きを知るのが微分です。
もし坂が平らなら傾きはゼロ、急であれば傾きは大きくなります。この「傾きの度合い」を測るのが微分です。
ダイエットをしているとします。体重計に乗ると、その日の体重が分かります。毎日体重を記録していくと、体重は少しずつ変化していくはずです。
「昨日から今日にかけて、私の体重はどれくらいのペースで減った(または増えた)んだろう?」と考えたとき、この「変化のペース」を測るのが微分です。
もし変化が大きければペースが速い、ほとんど変わらなければペースが遅い、ということになります。
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