AI技術の進化をけん引するNVIDIAが、半導体技術の進化にも大きな影響を与えようとしている。同社のティム・コスタ氏によれば、AIエージェントとフィジカルAIに加えて、これらに次ぐ第3のAIともいえる「AIフィジックス」が重要な役割を果たすという。
AI(人工知能)技術の進化をけん引するNVIDIAが、半導体技術の進化にも大きな影響を与えようとしている。同社の技術の基盤となるGPUは、半導体の微細化によってさらに高い性能を発揮するようになっているが、そのGPUから構成される巨大AIサーバともいえるAIファクトリーの力でこれまでの半導体製造の限界を打ち破るような物理現象の解明が可能になり、半導体の微細化がさらに進められるという“正の循環”を生み出そうとしているのだ。
半導体産業におけるこの“正の循環”を支えるのが、生成AIの登場によって一気に注目を集めているAIエージェントとフィジカルAIに加えて、これらに次ぐ第3のAIともいえる「AIフィジックス(AI Physics)」である。半導体製造技術の展示会「SEMICON Japan 2025」(2025年12月17〜19日、東京ビッグサイト)に合わせて来日した、NVIDIAで産業および計算工学担当 ジェネラル マネージャを務めるティム・コスタ(Tim Costa)氏は「AIエージェントは技術者の業務を支援し、フィジカルAIが半導体製造の自動化を進めるのに対し、AIフィジックスは半導体製造プロセスにおける物理現象を解明する助けになるものだ」と説明する。
AIフィジックスは、機械学習を用いて物理現象のシミュレーションを代替するサロゲートモデル(代理モデル)が基盤となっている。機械設計の技術者による活用が広がりつつあるサロゲートモデルそのものは特別なものではない。AIフィジックスでは、物理現象のシミュレーションをリアルタイムで行えるようにし、シミュレーションに基づく仮想空間と現実空間を連動させるデジタルツインを作ることを目指している。
コスタ氏は「AIの計算性能が大きく向上してきたことで、AIフィジックスは現実的な手段として視野に入ってきた。半導体製造プロセスにAIフィジックスを取り入れるという意味で半導体メーカーは既に曲がり角を曲がったといえる。AIの進化が半導体の進化を生み、半導体の進化がさらにAIの進化を生むという形で両輪が回り始めているのだ」と強調する。
NVIDIAは2025年11月、さまざまな産業分野におけるAIフィジックスの活用を広げるべくオープンモデルである「Apollo」を発表した。同社はこれまでも、ロボティクス向けの「GR00T」、フィジカルAI向けに「Cosmos」、AIエージェント向けの「Nemtron」、バイオ医療AI向けの「Clara」といったオープンモデルを公開してきたが、AIフィジックスでもApolloをオープンソースで公開することによってシミュレーション技術にさらなる革新をもたらそうとしているのだ。
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