富士通は技術戦略説明会において、製造現場へのAI導入課題を解決する次世代CPU「MONAKA」や1ビット量子化技術について説明した。会場では、研究開発の成果として空間モデル技術のデモンストレーションを披露した。
富士通は2025年12月2日、Fujitsu Technology Park(川崎市中原区)において技術戦略説明会「Fujitsu Technology Update」を開催し、最新の技術ロードマップと研究開発の成果を公開した。同社は製造現場を重点ターゲット市場の1つと据えており、業界が抱える危機感を示すとともに、その具体的な解決策となる技術を紹介した。会場では、同社が開発を進める技術の成果について、デモンストレーションを交えて披露した。
冒頭で富士通 執行役員副社長CTOのヴィヴェック・マハジャン氏は、同社の今後5年間の技術戦略の中核として「Sovereign AI Platform(ソブリンAIプラットフォーム)」を掲げた。
これは、企業の機密データや独自のノウハウをパブリッククラウドに依存せず、オンプレミスやプライベートクラウドといった自社のコントロール下で安全に活用するためのAI(人工知能)基盤だ。AI基盤を軸に、同社が展開するクラウドベースAIの「Kozuchi」や、LLM(大規模言語モデル)の「Takane」を活用し、企業専用のAIモデルを構築する。同社では、このようなソブリンAIプラットフォームが不可欠なターゲット市場として、製造、防衛、行政、ヘルスケア、金融を挙げている。
そのターゲット市場の中でも、特に機密情報の扱いがシビアなのが製造分野だ。 マハジャン氏は「製造業にとって、図面や製造法などのIP(知的財産)は絶対に外部へ出したくないものであり、独自のAI構築が必要になる」と指摘する。そこで同社は、前述した企業専用のAIモデル構築に加え、AI導入の最大の障壁となるセキュリティ懸念を解消するために「AI Trust」技術を提供する。
例えば、AIモデルに特殊なノイズを混ぜて誤動作を誘発させる「敵対的サンプル攻撃」や、学習データに不正なデータを混入させる「ポイズニング攻撃」、さらにはAIモデルそのものを盗み出す「モデル窃盗」などのAIモデルへの攻撃に対応する防御技術がある。また、昨今問題となっているディープフェイクなどの偽情報を検知する技術も投入する。これにより、設計図面の改ざん検知や、真正性の担保が可能となる。
同社独自のセキュリティ技術により、AIモデルへの攻撃やデータ漏えいを防ぎ、IPを守りながら安心してAIを使える環境を整備する方針だ。
AIを製造現場に導入する際に、セキュリティと並んで課題となるのが「電力効率」と「ファシリティ(設備)制約」だ。データセンターとは異なり、生産ラインがある工場ではサーバルームを用意すること自体が難しく、その空調や電源容量に避けるリソースにも限界がある。
富士通 執行役員常務 富士通研究所長の岡本青史氏は、「生成AIを稼働させるために、現場に巨大なGPUサーバを置くことはできない」と現場の実情を指摘する。この「場所と電力」の課題解決に向け、同社は2つの技術を提案する。
まずは、現在開発を進めている次世代データセンター向けの省電力プロセッサ「FUJITSU-MONAKA」だ。2nmプロセスを採用したArmベースのCPUであり、スーパーコンピュータ「富岳」の技術を継承させている。従来のCPUと比較して計算性能を約2倍に向上させつつ、消費電力は約50%削減となる見通しだ。また、特殊な水冷設備を必要とせず空冷で稼働できるため、データセンターだけでなく工場などの設備制約のある環境への導入が期待される。MONAKAは、完全「メイドインジャパン」のAI用プロセッサとして、2027年の投入を目指している。
同時に研究開発を進めているのが、「1ビット量子化」によるAIモデルの軽量化技術だ。従来は16ビットや32ビットの浮動小数点を用いて計算されるAIモデルを、重みの符号だけを保持して変換することにより性能を維持したまま1ビットまで圧縮する。同社はこの技術を、自社のLLMである「Takane」に導入した。岡本氏によれば、これにより「GPUサーバのような巨大な筐体がなくても、現場のPCレベルのエッジデバイスでLLMが動くようになる」(岡本氏)という。
MONAKAと1ビット量子化技術の掛け合わせにより、データを外部に出さず、現場環境のままでAI処理を完結させることが、富士通が製造業へ提供するバリューであるとした。
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