光通信の基礎から応用までを紹介する本連載。第1回は、古代の人々が使っていたのろしと同じように光で信号を送る実験を行う。
組み込み技術者にとって、今や電波に関する知識や経験はとても重要になっています。しかし、電波に関わる実験や開発を行うには、電波法による規制に阻まれ、電波暗室などの設備のある組織でないと自由に行えないのが現状です。電波暗室のコストを考えると、電波を扱う研究や開発は中小企業やスタートアップが手を出しづらい分野といえます。
そこで本連載は電波によく似た性質をもつ光を使った通信の基礎から応用までを紹介します。光通信の変調方式には、通信速度や信頼性において一長一短あります。それらを、通信環境やコストなどの状況に合わせて使い分けや組み合わせを行って力を引き出すことで技術者の力量が試されます。
なお、本連載は光通信の空間伝送を扱います(光ファイバーなどの光導波路は使用しません)。また、本連載の後半では、教育効果が高いとされるコンテスト形式の演習手段であるCTF(Catch The Flag)を取り入れ、学んだ技術の定着を図る試みにも言及します。
現時点では、以下のようなテーマで連載を進める予定です。
今回から何回かに分けて光通信についてお話ししていきたいと思います。
光通信と言えば光ファイバー網を行き交うレーザー光を思い浮かべる読者も多いかと思いますが、本連載で扱うのは空間伝送です。空間伝送といえば携帯電話に代表されるように電波を用いるのが一般的ですが、さまざまな通信実験を行う際、電波にかかわる法律の制限が厳しくてなかなか安易に電波を出すことはできません。そこで、電波暗室などの施設を使うことも考えられますが、施設の数が限られており、いつでも誰でも利用できる状況にはありません。そこで、電波と同様に空間伝送の実験ができ、さまざまな法律の制限を受けにく光を使うことを思い付きました。
今から50年以上前、筆者が子どものころですが、電子工作雑誌では「FMワイヤレスマイク」というものが定番で大人気アイテムでして、こぞって作ったものです。これはいわゆる微弱電波を用いる機器の一種で、微弱電波の範ちゅうを越えなければ誰でも作ったり使ったりできたのですが、最近はこの微弱電波に関してもさまざまな制限が加えられるようになりました。その関係かどうかは分かりませんが、電子工作系の雑誌からはこのFMワイヤレスマイク系の製作記事は一切見掛けなくなりました。FMワイヤレスマイクを作ることはいわゆるラジオ少年が無線に目覚めるよい機会だと思っていたのですが、少し残念な気持ちを拭えません。
さて、最初は単純に光通信で0と1を送る試みから始めたいと思います。
古代において、電気や電波を使わない「光」を用いた長距離通信は、主に視覚的な信号伝達によって実現されていました。これは現代の光ファイバー通信とは全く異なりますが、情報を光(炎や反射)に乗せて送るという意味で「光通信」と呼べます。
古代から世界中で最も広く使われた光通信の方法がのろしです(図1)。
その仕組みは、遠くからでも見えるよう、高台や塔に監視所(のろし台)を設け、火や煙を上げて信号を送るというものです。これは主に軍事目的で使われました。敵の襲来や危険を瞬時に遠方へ知らせるためのシンプルな警告信号です。
信号としての情報量は少なく、「敵が来た」「安全だ」といった限られた情報しか伝えられませんでした。複雑な情報を伝えるには、事前に取り決められた複数ののろし台の位置や火の回数などでコード化する必要がありました。
古代ギリシャでは、のろしを用いた定量的な通信システムが考案されています。ポルテグラフィー(Polybius Square:ポリュビオスの暗号)と呼ばれる方法で、紀元前4世紀頃に歴史家ポリュビオスが考案したといわれています。
その仕組みは、ギリシャ語のアルファベットを縦5行、横5列のマス目に対応させます。情報を伝えたいとき、「行」を示すのろしと「列」を示すのろしの2組の信号を使い分けました。これにより、「敵が来た」といった単純な警告だけでなく、具体的な文章や単語を伝えることが可能となり、光通信の情報伝達能力を飛躍的に向上させました。
特定の時代や場所では、太陽の光を反射させて信号を送る方法も使われました。仕組みは磨かれた盾や鏡などを使い、太陽光を反射させて遠隔地に光の点滅を送ります。主に明るい日中に使用されました。のろしよりも微細な点滅を操作できるため、モールス信号のようにより多くの情報を伝えることが可能でした。
近代でもヘリオグラフとして軍用通信で用いられています。
これら古代の光通信は、現代のようなデータ伝送速度は持たないものの、瞬時の情報伝達という点で、古代の社会や軍事戦略において極めて重要な役割を果たしました。
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