はやぶさ2は小惑星までどうやって向かうのか? 〜ミッションシナリオ【前編】〜次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(6)(1/3 ページ)

これまで、小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載される装置の役割や仕組みについて解説してきたが、今回は、プロジェクト全体の流れをあらためて整理したい。打ち上げから地球帰還までにこなさなければならないミッションシナリオとは?

» 2013年02月15日 11時00分 公開
[大塚実,MONOist]
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はやぶさ2

 これまで本連載では、「サンプラー(試料採取装置)」と「インパクタ(衝突装置)」の役割や仕組みについて紹介してきた。「さて、次はどんな装置を紹介してくれるのか」と期待している方には申し訳ないが、今回、ハードウェアの話題は一休み。あらためて、小惑星探査機「はやぶさ2」プロジェクトの全体の流れ、打ち上げから地球帰還までにこなさなければならないミッションシナリオについて詳しく見ていきたい。


「次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う」バックナンバー

 今回、話を伺ったのは、「はやぶさ2」のプロジェクトエンジニアを務める宇宙航空研究開発機構(JAXA)/月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC) 助教 津田雄一氏だ。“プロジェクトエンジニア”というのは、ちょっと聞き慣れない肩書かもしれないが、プロジェクトマネジャーを補佐するサブマネジャー級の役職の1つで、探査機本体の開発の他、運用計画や軌道計画の策定などを担当している。

津田雄一氏 宇宙航空研究開発機構(JAXA)/月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC) 助教 津田雄一氏

ピンポイントな打ち上げタイミング

 「はやぶさ2」は、2014年の冬に打ち上げられ、2020年12月に地球に帰還する計画である。ちょうど6年の歳月をかけて、地球と小惑星を往復する。初代「はやぶさ」(以下、初代)のときは、帰還までに7年を要した。トラブルさえなければ、もともとは4年で帰ってくる予定だったので、「はやぶさ2」の場合は、初代のときよりも少しだけ“長旅”になるということだ。

 「はやぶさ2」のミッションは全体的に、初代と非常によく似ている。唯一大きく異なる点は、小惑星に滞在する期間が“約1年半”と、かなり長くなったことだ(詳しくは後述する)。

フライトモデル 2012年12月、「はやぶさ2」のフライトモデルが初めて報道陣に公開された。まだ開発中のため、機器の多くはダミーウェイトとなっている

 では、ミッションのスタートから順に見ていこう。

 初代を打ち上げた「M-V」ロケットは2006年に廃止されてしまったため、「はやぶさ2」の打ち上げには、「H-IIA」ロケットが使用される。H-IIAは本来、地球を周回する衛星の打ち上げに最適化されたロケットであるが、17号機で金星探査機「あかつき」を打ち上げた実績もあり、能力的に特に問題はない。加えて、16機連続で打ち上げ成功という実績もあって機体の信頼性も高い。

 ただ、深宇宙に向かう探査機には、目標天体の軌道や地球との位置関係により、打ち上げ可能な時期が限定されるという特有の問題がある。この期間を「ウィンドウ」と呼び、「はやぶさ2」の場合は2週間程度しかない(打ち上げのタイミングは1日1回のみ)。そのため、この“宇宙への窓”が開いているときを逃してしまうと……、次のウィンドウまで足止めを食ってしまう。

 固体燃料を用いるM-Vと違い、極低温の液体燃料を使うH-IIAは、燃料を充填した後で打ち上げが延期されてしまうと、燃料をいったん抜いて点検する必要がある。だから、翌日すぐに打ち上げるなんてことはできない。冬の種子島は、上空にある雲の氷結層のせいで打ち上げが延期になることも多く、難しい判断を迫られる場面もあるかもしれないが、2週間あれば恐らく大丈夫だろう。

 一応、物理的な軌道としては、半年後と1年後にもウィンドウはある。しかし、小惑星への到着時期は変わらないため、結果として、イオンエンジンの運用に余裕がなくなってしまう。ほとんど休ませることができなくなるため、もし何かトラブルが発生したときに対応が難しくなる。できる限り、“2014年の冬”に打ち上げたいところだ。

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