転換点を迎えるロボット市場の現状と今後の見通し、ロボット活用拡大のカギについて取り上げる本連載。第4回は、構造的な転換期へと差し掛かっているFAシステムと産業用ロボット市場の動向について解説する。
連載第2回、第3回では、サービスロボットのポテンシャルと導入のポイントについて解説した。今回は、構造的な転換期へと差し掛かっているFA(Factory Automation)システムと産業用ロボット市場の動向について解説する。
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産業用ロボット市場では、ロボット新戦略から10年を経て「データとインタフェースの時代」へと変化してきている。ハードウェアでは中国系企業によるキャッチアップが進む一方で、ソフトウェアではAI(人工知能)やデータ連携によるロボットのネットワーク化が加速し、誰もが使いこなせる「Easy to Use」なロボットシステムも実現されつつある。産業用ロボットシステムの価値の源泉が、ハードウェアからロボットシステムとしてのソリューションへと移行していく中で、今後は日本のロボット産業がこれまで蓄積してきた資源を生かしながらもシステムインテグレーションの在り方を変革するようなプレイヤーが求められているのではないだろうか。
まずは市場動向について見ていきたい。足元の産業用ロボット市場では大きな3つの変化が起きている。1つ目は、中国企業に代表される新興メーカーの台頭である。中国は「『第14次五カ年(2021〜2025年)』ロボット産業発展規画(ロボット規画)」を発表して、国産ロボットメーカーの育成を推進し技術力を高めており、その結果としてシェアが高まっている。制御機器、生産設備など幅広いハードウェア市場でも同様に中国企業の存在感が増し、日本企業も苦戦を強いられるようになってきている。
2つ目はソリューション市場の拡大だ。より俯瞰的にFA市場全体を見るとOT(制御技術)サービスやエンジニアリングサービスといったOTソリューション関連市場は、FA機器市場よりも大きな成長が見込まれる。産業用ロボットをはじめとするFA機器においてもハードウェアからソリューションやサービスへとマーケットの重心が移りつつあることが見て取れる(図1)。
3つ目は、新たな分野におけるロボットユーザーの裾野の広がりである。IFR(国際ロボット連盟)によると、自動車業界、電気/電子機器業界といった伝統的なマーケットは、中国市場の減速もあり2018〜2023年の導入台数の平均成長率は2%にとどまっている。一方、これまでロボットの活用が少なかった多品種少量の生産現場や、食品、医薬品、物流倉庫といった未活用領域が市場成長をけん引する形へと変化してきている(図2)。
このような構造的変化の中では、どのような取り組みが求められるのだろうか。
1つは、ユーザーフレンドリーなアプローチによる取り組み、もう1つはロボットを含む高度な生産システムとしての統合的なアプローチによる取り組みと考える。これらの実現に向け、新たなインテグレーターが変革をけん引することが期待される。
2015年に政府の日本経済再生本部が打ち出したロボット新戦略においても、ロボットシステム活用の鍵となるシステムインテグレーターについて「質、量ともに不足しており、早急に対応する必要がある」とその重要性が指摘された。その後、日本ロボットシステムインテグレータ協会の設立などの取り組みは進んできたものの、このような構造変化の中で日本のロボット産業が今後も世界をリードしていくためには今なお重要な課題の一つと言える。
ユーザーフレンドリーなアプローチでは、未活用領域へとユーザーの裾野が広がる中でAI、センサーなどのモジュール化されたテクノロジーを活用しながら現場環境に合わせてインテグレーションが容易な「Easy to Use」のロボットシステムの構築が重要になる。地域や企業に密着しながらも先端的なテクノロジーの活用に取り組むインテグレーターへの期待は大きい。
2023年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が公表したロボットアクションプランでも、業務や環境も併せて変革しユーザーの課題解決に必要な条件を満たすロボットシステムとその運用を組み上げることの重要性が取り上げられている。そのような変革意識を持ったインテグレーターによってビジョンや周辺装置を組み合わせ、ユーザーの利便性を高めたパッケージソリューションも徐々に提供され始めているものの、強化学習や生成AIの活用などは端緒に就いたばかりである。テクノロジーの進化とともに新たなインテグレーションの在り方へのさらなるチャレンジが求められている。
一方、統合的なアプローチでは、ITシステム、OTシステム、ハードウェアといった生産システムの構成要素とテクノロジーをシームレスに融合させて全体最適を実現することが重要だ。ここでは、工程全体や生産ライン全体の設計/設備導入を行うラインビルダーがその重要な担い手となる。ラインビルダーが従来のフィジカルな生産システムにとどまらず、AI、デジタルツインなどのテクノロジーを取り入れて包括的な生産システムを提供するデジタルラインビルダーとなり、業界変革をリードしていくことが期待される。
2024年に経済産業省が示した「製造業を巡る現状と課題 今後の政策の方向性」においても、「製造業系サービス事業者の育成」や「製造業DX技術インテグレーターの育成」の重要性がうたわれており、このことからも変革をリードしていく存在に対する期待と課題が読み取れる。しかし、日本国内においては明確にデジタルラインビルダーとしてのポジションを確立している企業はいまだ不在といってよいであろう。
これら2つのアプローチにおいて、その本質はテクノロジーと生産システム/自動化システムとを結び付け、データ活用を通じて付加価値を高めていくことであり、産業用ロボット市場は「データとインタフェースの時代」へと変化を進めている。次ページ以降では、これら2つのアプローチについてより詳しく見ていきたい。
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