加速度的に進む産業用ロボットの構造転換、その進化の方向性は?転換点を迎えるロボット市場を読み解く(4)(2/3 ページ)

» 2025年01月15日 08時00分 公開

4.「Easy to Use」なロボットシステムの普及

 ここからは、ユーザーフレンドリーなアプローチである「Easy to Use」なロボットシステムとその担い手について詳しく解説していく。

 産業用ロボット市場の成長分野が少量多品種の生産現場や、食品、医薬品、物流倉庫といったこれまで未活用だった領域へと広がっていく中で、ユーザー視点でテクノロジーを統合しながら利便性を高める「Easy to Use」がマーケット拡大のカギとなってきているのには3つの理由がある。

 1つ目は、伝統的なマーケットと未活用領域それぞれのユーザーの持つ生産技術力の差である。自動車、電機といった伝統的なマーケットでは、ユーザー側の生産技術力が高く、工場がシステム化されており、ロボットの専門家も自社内で有している。そのため、ユーザーが工程設計を行い、それを実現することができる可搬重量、タクトタイム、動作精度といったロボットの高機能化を実現していくことが産業用ロボットの最重要課題であった。

 一方、未活用領域では、ユーザー側の生産技術力は相対的に低く、産業用ロボットに関するノウハウ、人材も限定的である。言い換えるとロボットメーカーやイングレーターから見て手間がかかり、市場規模も大きくない段階では魅力的なマーケットではなかったと考えられる。しかし、伝統的なマーケットの市場成長が鈍化する中で、このような新たなユーザーのニーズに対応していく必要が高まってきている。つまり、いかに簡単に導入できるか、さらには導入後も簡単に扱えるかに産業用ロボットに対するユーザーの価値基準が変化してきているのである。

 2つ目の理由は、伝統的なマーケットと未活用領域とのインテグレーションコストの差である。伝統的なマーケットでは、比較的大規模な生産ラインで同一の製品を大量生産してきたという特徴がある。これに対して、未活用領域では、個々の生産ラインは小規模であり、ライン内での生産品目の変更が頻繁に行なわれ、ロボットが取り扱うワークの形状も複雑である。そのため、ロボットを導入するインテグレーターにとっては、1件当たりの規模が比較的小さいことに加えて難易度が高く、インテグレーションコストが高くなってしまいがちである。このことが普及の足かせとなっていたが、成長分野のシフトによって、インテグレーターにとっても新たな業界や工程にチャレンジしていく必要性が高まってきている。そのため、インテグレーションのリスクとコストを抑えてより簡易に導入できるロボットシステムが、ユーザーだけでなくインテグレーターの視点からも求められるのである。

 これら市場側の環境変化に加え、テクノロジーの進化が追い付いてきたことが「Easy to Use」なロボットシステムがいま注目される3つ目の理由である。「Easy to Use」を実現するためのキーテクノロジーとして、ロボットの「目」「手」「ヒューマンインザループ」「簡易なインテグレーション」という4つの進化が挙げられる。

 これらテクノロジーの進化によってどのようなロボットシステムが実現されるのだろうか。ロボットの「目」であれば、画像からの精度の高い物体認識や動作位置の自動生成によってバラ積みされた部品など複雑な状態にある対象物のハンドリングが可能となる。ロボットの「手」であれば、力触覚などのセンシングを活用することで、より簡単に柔軟物をしっかりと握り持つことができる。

 「ヒューマンインザループ」では、自律制御と人による遠隔操作を組み合わせて動作を最適化することで、画像認識などAI技術だけでは実現できなかった複雑な作業が容易に行えるようになってきている。「簡易なインテグレーション」では、ロボットシステムと生成AIの組み合わせで、自然言語による指示やタッチペンによる直感的操作、デジタルツイン上でのシミュレーションから動作や軌道が生成可能となることで、ロボットの専門家以外でも容易にティーチングやタスク変更が可能となってきている。このようにテクノロジーの進化によってロボットシステムの導入や導入後の活用を簡単にすることが可能となってきたのである。

 これらの「Easy to Use」の実装事例としては図3のようなものが挙げられる。モジュール化が進みビジョン、AI、デジタルツインなどとロボットシステムとが容易に接続可能となることで、先進的なインテグレーターによってパッケージ化されたロボットシステムも実現されてきている。ハード中心の硬直的な制御をソフトウェアの柔軟性で吸収できるからこそパッケージ化も可能となり、テクノロジーとのインタフェースとデータ連携も含む新たなインテグレーションの在り方がカギとなっている。

図3 図3 「Easy to Use」の事例[クリックで拡大] 出所:PwCコンサルティング

 しかしながら普及に向けては業界構造上の課題もクリアしなくてはならない。インテグレーションが容易になることは、インテグレーターにとっては自社の売り上げが減ることにもなりかねないからである。インテグレーターが「Easy to Use」なロボットシステムを推し進めることに抵抗感を持つことは想像に容易い。しかし、未活用領域のポテンシャルは大きく、ユーザーの導入機運が高まっている今こそ、変革をリードする新たなインテグレーターにとっては事業チャンスとなるのではないだろうか。

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