ルネサスが独自AIアクセラレータ搭載MPUにミッドレンジ品を追加、処理性能15TOPS人工知能ニュース(1/2 ページ)

ルネサス エレクトロニクスは、同社独自のAIアクセラレータ「DRP-AI」を内蔵するMPU「RZ/Vシリーズ」に「RZ/V2N」を追加すると発表した。AI処理性能が最大15TOPSのRZ/V2Nは、同最大80TOPSでハイエンドの「RZ/V2H」、最大1TOPSでローエンドの「RZ/V2MA」「RZ/V2M」「RZ/V2L」の中間に当たるミッドレンジに位置付けられる。

» 2025年03月11日 11時30分 公開
[朴尚洙MONOist]

 ルネサス エレクトロニクスは2025年3月11日、同社独自のAI(人工知能)アクセラレータ「DRP(動的再構成プロセッサ)-AI」を内蔵するMPU(マイクロプロセッサ)「RZ/Vシリーズ」に「RZ/V2N」を追加すると発表した。AI処理性能が最大15TOPSのRZ/V2Nは、同最大80TOPSでハイエンドの「RZ/V2H」、最大1TOPSでローエンドの「RZ/V2MA」「RZ/V2M」「RZ/V2L」の中間に当たるミッドレンジに位置付けられる。主に、自動走行ロボットやAIカメラ、ドライブレコーダー/ドライバーモニタリングシステムなど映像系AIを用いる製品に向ける。RZ/V2Nの量産開始と発売は同月19日の予定だ。

 RZ/V2Nは、RZ/V2Hで初採用した最新世代のDRP-AI「DRP-AI3」を搭載している。DRP-AI3は、量子化や枝刈り(Pruning)といった最新のAIモデルの軽量化手法を取り入れることで従来比で10倍となる消費電力当たりのAI処理性能10TOPS/Wを達成したAIアクセラレータだ。このDRP-AI3の機能を生かすことにより、RZ/V2Hは最大80TOPSというAI処理性能を実現した。

 これによってRZ/V2Hは、高いAI性能とリアルタイム制御が求められるアプリケーション向けの引き合いが拡大しており、RZ/V2Hは2024年2月の発表から約1年間で商談規模が約2.3倍に拡大するなど好評を得ている。

「RZ/V2H」のビジネス状況 「RZ/V2H」のビジネス状況[クリックで拡大] 出所:ルネサス エレクトロニクス

 一方で、RZ/V2Hほどの高いAI処理性能は必要ないものの、MPUのサイズや消費電力、コストなどを抑えた製品を要望する声も高まっていた。しかし、RZ/Vシリーズでは、RZ/V2H以外の製品は前世代のAIアクセラレータである「DRP-AI1」を採用する、AI処理性能が最大1TOPSのRZ/V2MA、RZ/V2M、RZ/V2Lしかなかった。そこで、ビジョンAI向けMPUであるRZ/Vシリーズで、AI処理性能で1〜10TPSというミッドレンジのAI処理性能に対応するメインストリーム製品として開発したのがRZ/V2Nである。

ビジョンAI向けMPU「RZ/Vシリーズ」における「RZ/V2N」の位置付け ビジョンAI向けMPU「RZ/Vシリーズ」における「RZ/V2N」の位置付け[クリックで拡大] 出所:ルネサス エレクトロニクス

 RZ/V2Nは、プロセッサコアとしてArmの「Cortex-A55」を4コアと「Cortex-M33」を1コア搭載しており、AIソフトウェアなどのLinuxベースアプリケーションの処理と、マイコンによるリアルタイムのシステム制御の両方に対応できる。AI処理性能は、枝刈り後のSparseモデルで最大15TOPS、枝刈りしないDenseモデルで最大4TOPSとなっている。映像系AIを用いる製品への対応力を高めるため、4Kの画像信号処理が可能なArmの「Mali-C55」を採用するとともにMIPIカメラインタフェースも2チャネル備えている。

「RZ/V2N」の主な特徴 「RZ/V2N」の主な特徴[クリックで拡大] 出所:ルネサス エレクトロニクス

 これらの機能は基本的にRZ/V2Hと共通しているが、一部機能を省くことでICのサイズや消費電力、コストを抑えている。例えば、RZ/V2Nの外形寸法はRZ/V2Hと比べて38%削減されている。AI処理にかかる消費電力も最大15TOPSであることから1.5Wまでに抑えた。そしRZ/V2Nの価格はRZ/V2Hの半額に低減しているという。

「RZ/V2H」と「RZ/V2N」の機能の違い 「RZ/V2H」と「RZ/V2N」の機能の違い[クリックで拡大] 出所:ルネサス エレクトロニクス

 RZ/V2Hとの機能の違いは以下の通り。プロセッサコアでは、「Cortex-R8」×2コアを搭載していない。LPDDR4Xとのメモリインタフェースは、RZ/V2Hでは32ビット×2チャネルだったがRZ/V2Nは1チャネルに削減した。DRPとMAC(積和演算)ユニットの組み合わせから成るDRP-AI3については、RZ/V2NではMACユニットのサイズをRZ/V2Hの半分にしている。

 また、RZ/V2HではDRP-AI3とは別途もう1基のDRPを用意しており、画像処理に用いるオープンソースの業界標準ライブラリである「OpenCV」をDRP向けに最適化した「OpenCV Accelerator」を、DRP-AI3のAI処理と並行して処理することが可能だった。RZ/V2Nは、このもう1基のDRPを持たず、メモリインタフェースも1チャネルしかない。このため、DRP-AI3によるAI処理もしくはDRP-AI3内のDRPを用いたOpenCV Acceleratorの処理のどちらかを選んで実行する必要がある。

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