バイナリプログラミングは何の役に立つ? 「imaoPad」の使い方を動画で解説注目デバイスで組み込み開発をアップグレード(28)(1/2 ページ)

注目デバイスの活用で組み込み開発の幅を広げることが狙いの本連載。今回は、そもそもバイナリプログラミングが何の役に立つのかについて、サイバーセキュリティの観点で具体的に説明する。また、前回に引き続きFPGA評価ボードの万能UI「imaoPad」を使ったバイナリ入門について動画で解説する。

» 2025年05月29日 09時00分 公開
[今岡通博MONOist]

はじめに

 今回も、前回に引き続き「imaoPad」を取り上げます。imaoPadの製作目的の一つは、誰でもバイナリプログラミングを学べるガジェットが欲しかったからです。ここでいう“誰でも”とは、大人のコンピュータの初学者だけでなく、まだPCのキーボードが使えない子どもも対象にしています。

 筆者はある仮説を持っています。それは、コンピュータを学ぶのであれば、コンパイラやインタープリタといった高級言語よりも、バイナリプログラミングの方がコンピュータのことを早くかつ深く理解できるというものです。0と1だけを使ってコンピュータ(CPU)と会話をしながらプログラミングを行うバイナリプログラミングは、高級言語を使ってプログラミングを覚えた方にはかえって難しく見えるかもしれません。しかし、バイナリプログラミングの方がむしろ早道なのです。

 そこでバイナリプログラミングのやさしさを説明したいと思います。imaoPadには、「DL166」というオリジナル4ビットCPUを実装しています。このCPUには12の命令と8個のレジスタがあります。これらの動きと使い方さえ覚えればプログラミングを始められるのです。DL166はプログラミング入門用に作ったCPUだから簡単なのだろうと思われるかもしれませんが、DL166でバイナリプログラミングを覚えてしまえば、市販されているCPUに移行することは容易です(よほどクセのあるCPUでなければですが)。なお、DL166については連載「オリジナルCPUでバイナリコード入門」を参照してください。

⇒連載「オリジナルCPUでバイナリコード入門」バックナンバー

 確かに市販のCPUは、プログラムを動かす前の割り込みベクター設定など幾つかの“おまじない”的なものがあります。そこはCPUのマニュアルにあるサンプルコードをコピペして使えば問題ありません。本質的なプログラミングの考え方は、DL166と全く同じであることに気付くでしょう。

 Dl166と比べると市販のCPUは圧倒的に命令セットの数は多いのですが、最初からその全てを覚える必要はありません。ほとんどのCPUはDL166のスーパーセット(機能が拡張され上位互換となっているもの)になっています。これは、DL166が持っている命令は他のCPUも持っているということです。ですから、市販のCPUでバイナリプログラミングを始めるときには、DL166で覚えたプログラムをまず動かしてみてください。そして、もっと高度な命令を使いたくなった時にそのCPUのマニュアルを見て自分の使いたい命令セットを見つけ出せばいいのです。

 確かにDL166には割り込みやサブルーティンコールの概念はありませんが、多くの用途はDL166で覚えたプログラミングテクニックが使えるはずです(筆者個人の見解ですが)。

⇒連載「注目デバイスで組み込み開発をアップグレード」のバックナンバー

サイバーセキュリティで理解するバイナリプログラミングを学ぶ意義

 ここからは、バイナリプログラミングが役に立つ場面について、サイバーセキュリティの観点から見てみましょう。

マルウェア解析(リバースエンジニアリング)

 マルウェア(ウイルス、ランサムウェアなど)は通常、実行可能なバイナリファイルとして配布されます。サイバーセキュリティ研究者やアナリストは、これらのバイナリコードを逆アセンブル(機械語からアセンブリ言語に変換)し、さらにその動作を解析することで、マルウェアの機能、感染経路、通信先、攻撃手法などを特定します。

 マルウェアが特定のソフトウェアの脆弱性を悪用する場合、その脆弱性の詳細をバイナリレベルで理解することが、対策を講じる上で不可欠です。

脆弱性診断/ファジング

 バイナリベースの脆弱性診断はソフトウェアのソースコードがない場合でも、コンパイル済みのバイナリファイルに対して脆弱性診断を行うツールがあります。これにより、組み込みシステムやIoT(モノのインターネット)デバイスなど、ソースコードへのアクセスが難しい環境でもセキュリティ上のリスクを可視化できます。

 一方、ファジングは、意図的に異常なバイナリデータ(ファズ)をシステムに与え、その挙動を監視することで、潜在的な脆弱性(クラッシュ、サービス拒否、情報漏えいなど)を発見することです。バイナリデータであるファズを扱う以上、バイナリプログラミングの知識が役立ちます。

フォレンジック調査

 フォレンジック調査では、サイバー攻撃を受けた際にシステムに残されたバイナリデータ(メモリダンプ、ディスクイメージなど)を詳細に解析することで、攻撃の痕跡、侵入経路、窃取された情報などを特定し、被害状況を把握します。機器に残された改ざんされていないバイナリデータは重要な証拠であり、これを保全/解析するためにはバイナリに関する知識が役立ちます。

脅威インテリジェンス

 共通のコードベースから派生したマルウェアはマルウェアファミリーとして分類されます。類似したバイナリ構造や動作を持つマルウェアファミリーを分析することで、特定の攻撃グループの活動を追跡し、将来の攻撃を予測するための情報(脅威インテリジェンス)を生成できます。

 また、マルウェアファミリーの分類に用いられるシグネチャは、既知のマルウェアのバイナリパターンを抽出して、セキュリティ製品(アンチウイルスソフトなど)がマルウェアを検出するために作成されます。

組み込みシステム/IoTのサイバーセキュリティ

 組み込みシステムやIoTデバイスのファームウェアは通常バイナリ形式で提供されます。これらのファームウェアを解析することで、潜在的な脆弱性やバックドアの有無を確認し、デバイスのサイバーセキュリティを強化できます。ランタイム保護のように、実行中のバイナリコードの整合性を監視し、不正な改ざんや異常な動作を検知して阻止する技術も重要です。

セキュリティ対策の効率化

 セキュリティインシデントが発生した場合、発生した問題に対して対応の優先度を決定するトリアージが行われます。このトリアージを自動で行うために、脆弱性診断などで発見された脆弱性に対して、バイナリコードの分析に基づき、そのリスク度や対応の緊急性を自動的に評価する仕組みが開発されています。これにより、手動でのトリアージに比べて、より迅速かつ効率的にセキュリティ対策の優先順位付けが可能になります。

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