「コイル」は受動素子ナンバーワンの不思議ちゃん今岡通博の俺流!組み込み用語解説(13)(1/3 ページ)

今岡通博氏による、組み込み開発に新しく関わることになった読者に向けた組み込み用語解説の連載コラム。第13回は、受動素子ナンバーワンの不思議ちゃんである「コイル」を紹介する。

» 2025年05月19日 10時00分 公開
[今岡通博MONOist]

はじめに

 今回は「コイル」を取り上げます。連載第11回で紹介したコンデンサーと同様、能動素子ではないので決して派手なものではないのですが、意外といい働きをしてくれます。【訂正あり】

 コンデンサーはコイルと同じく受動素子の仲間で、よく組み合わせて使われます。もう1つの受動素子の仲間としては抵抗がありますね。コンデンサーや抵抗はコーティングされているのですが、コイルは巻いた針金がむき出しになっています。針金を巻いただけなのになぜこれ1個が回路に加わるだけで不思議な働きをするのだろうといつも疑問に感じていました。受動素子の中ではナンバーワンの不思議ちゃんではないでしょうか。

 コイルの利用目的は多岐にわたり、私たちの身の回りのさまざまな電化製品や産業機械に利用されています。「磁場を発生させる」「電磁誘導を利用する」「電気エネルギーをためる」「特定の周波数の信号を取り出す」「特定の周波数の信号を減衰させる」……などです。

 今回はこれらのコイルのさまざまな用途について解説するとともに、コイルを用いた回路に付きものの「逆起電流」とその対策法について紹介します。

⇒連載「今岡通博の俺流!組み込み用語解説」バックナンバー

用途1:磁場を発生させる

電磁石

 電流を流すことで磁力を発生させ、物を吸着したり、離したりするのに利用されます。

例:クレーン、リレー、ドアロック

モーター

 コイルに電流を流して磁場を発生させ、永久磁石との間で力を生み出し回転運動に変えます。

例:扇風機、洗濯機、電気自動車

スピーカー

 コイルに音声信号に対応した電流を流し、振動板を振動させて音を発生させます。

用途2:電磁誘導を利用する

変圧器

 異なる電圧の交流電流を変換するために利用されます。2つのコイル間の電磁誘導を利用して電圧を上げたり下げたりします。

例:送電網、ACアダプター

発電機

 コイルと磁石を相対的に動かすことで、電磁誘導により電気エネルギーを発生させます。

例:火力発電、水力発電、風力発電

誘導加熱

 コイルに高周波の交流電流を流し、発生する磁力線によって金属を加熱します。

例:IHクッキングヒーター

ワイヤレス給電

 コイル間で電力を非接触で伝送するために利用されます。

例:スマートフォン、電気シェーバーの充電

ダイナミックマイクロフォン

 昔、エレクトロニックコンデンサーマイク(ECM)が主流になる前、よく使われていたのがダイナミックマイクです。これは空気の振動でコイルを動かし、永久磁石との間で電磁誘導により音声で電気信号を発生させます。発電機と同じ原理ですね。

磁気エンコーダー

 周りのコイルと回転子に取り付けられた永久磁石がコイルとの間で相対的に位置が変わることで、回転の様子を電気信号に変換して観測することができます。これは、先述の「磁場を発生させる」で紹介したモーターと構造は同じですが、用途が真逆になっています。モーターが電気を回転運動エネルギーに変換するのに対して、磁気エンコーダーは回転エネルギーを電気信号に変換します。原理そのものは発電機と同じですね。

用途3:電気エネルギーをためる

インダクター(リアクトル)

 電流の変化を妨げる性質(インダクタンス)を利用して、電気回路におけるノイズの除去や、交流回路の位相調整、エネルギーの一時的な蓄えなどに用いられます。

例:電源回路、フィルター回路

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