注目を集める「STAMP/STPA」、失敗しないためにはどうすればいいのか今こそ知りたい!STAMP/STPAの勘所(1)(1/2 ページ)

複雑化するシステムの安全性解析の理論である「STAMP」とその分析手法である「STPA」に注目が集まっている。本連載では、この「STAMP/STPA」を実践する上で失敗しないための勘所をTips形式で簡潔に分かり易く説明する。第1回は、あらためてSTAMP/STPAを解説するとともに、Tips形式で進める本連載の狙いについて紹介する。

» 2025年11月17日 08時00分 公開
[石井正悟MONOist]

 システムとシステムがつながり、より複雑化するシステムの安全性解析の理論として「STAMP」が注目され、その分析手法である「STPA」の普及が進んでいる。本連載では、この「STAMP/STPA」を実践する上で失敗しないための勘所をTips形式で簡潔に分かり易く説明する。

なぜ今STAMP/STPAが注目を集めているのか

 本連載に先立ち2018年に公開した連載記事「基礎から学ぶSTAMP/STPA」で解説した通り、現代のシステムが大規模化/複雑化し、事故の原因も多様化したことで、従来の故障モード中心の安全解析手法では対応しきれなくなり、全体最適/相互作用の視点から安全性を分析する必要性が高まっている。

 先述した「現代のシステム」の開発における課題は以下の3点にまとめられるだろう。

  • システムの複雑化:現代のシステムはIoT(モノのインターネット)や自動運転など、ソフトウェアやネットワーク、組織、人の意思決定などが複雑に組み合わさるシステムが主流になってきた
  • 相互作用の増加:これまでのFTA(フォールトツリー解析)やFMEA(故障モード影響解析)は、単体の故障や個々の部品の問題には強いが、要素間の相互作用や操作ミス、設計ミスのような全体構造の問題には適用し難い
  • 事故要因の多様化:近年発生するシステム事故は「想定外の事故」や、「要件定義工程で生じる設計/仕様の不備」に起因するものが増加している

 こうした社会潮流を背景に誕生したのがSTAMP(Systems-Theoretic Accident Model and Processes:システム理論に基づくアクシデントモデル)/STPA(System-Theoretic Process Analysis:システム理論に基づく分析手法)であり、その有効性が認知され注目を集めるようになった。

STAMP/STPAはなぜ有効なのか

 システムが大規模化し複雑化する中で、STAMP/STPAの有効性として以下のような理由が挙げられている。

  • 相互作用に着目:STAMP/STPAは、事故をシステム構成要素間の「不適切な制御」や「相互作用の失敗」と捉え、従来手法が発見できない根本要因や危険シナリオも抽出可能である
  • 解析効率/品質向上:STAMP/STPAは開発構想段階や設計初期から適用できるため、運用前に多くのリスクを発見/除去可能であり、人的コストや時間の削減にも効果がある
  • 社会的背景と期待:サイバーセキュリティや産業界のシステム管理においても、「Safety 2.0」など新しい安全設計パラダイムに対応する手法として期待できる

 STAMPの提唱者であるマサチューセッツ工科大学(MIT) 教授のナンシー・レブソン(Nancy G. Leveson)氏が、2015年に筆者が所属するIPA(情報処理推進機構)に来訪した際に「STAMP/STPAが普及するには『ハンドブック』『ツール』『スタンダード』の3本柱が必要である」と語っていた。これら3本柱の整備状況は以下のようになっている。

ハンドブック

 日本では2016年にIPAが「はじめてのSTAMP」シリーズを発行し、2018年にはMITも「STPA Handbook」を公開した。

ツール

 2018年にIPAがSTAMP向けモデリングツールである「STAMP Workbench」を開発し、オープンソースソフトウェアとして無償公開した。その後、日本以外でもさまざまなSTAMPツールが開発/公開されている。

スタンダード

 3本柱のうち最後に残ったスタンダードについては、ここ数年で整備が進んでいる。欧州主導の国際規格ISO 26262(機能安全規格)2nd、ISO 21448(SOTIF)が正式発行され、いずれにおいてもSTAMP/STPA活用が推奨されている。米国主導の国際規格SAE J3187_202305(STPA推奨事例)、SAE J3307_202503(STPA規格)では規格として直接的にSTAMP/STPAの手順を定めている。

 このように3本柱がそろったことが世界的なSTAMP/STPA普及の背景にあると考えられる。筆者がIPAのWebサイトのアクセス統計情報を調べたところ、IPAのSTAMP成果物は、2016年に公開を始めて以来8年が経過した2024年にダウンロード数が過去最多となり、さらに2025年9月時点では前年の同時期を上回るペースで増加している。このことからも、STAMP/STPAに対する国内ニーズの確かな高まりを感じている。

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