複雑化するシステムの安全性解析の理論である「STAMP」とその分析手法である「STPA」に注目が集まっている。本連載では、この「STAMP/STPA」を実践する上で失敗しないための勘所をTips形式で簡潔に分かり易く説明する。第1回は、あらためてSTAMP/STPAを解説するとともに、Tips形式で進める本連載の狙いについて紹介する。
システムとシステムがつながり、より複雑化するシステムの安全性解析の理論として「STAMP」が注目され、その分析手法である「STPA」の普及が進んでいる。本連載では、この「STAMP/STPA」を実践する上で失敗しないための勘所をTips形式で簡潔に分かり易く説明する。
本連載に先立ち2018年に公開した連載記事「基礎から学ぶSTAMP/STPA」で解説した通り、現代のシステムが大規模化/複雑化し、事故の原因も多様化したことで、従来の故障モード中心の安全解析手法では対応しきれなくなり、全体最適/相互作用の視点から安全性を分析する必要性が高まっている。
先述した「現代のシステム」の開発における課題は以下の3点にまとめられるだろう。
こうした社会潮流を背景に誕生したのがSTAMP(Systems-Theoretic Accident Model and Processes:システム理論に基づくアクシデントモデル)/STPA(System-Theoretic Process Analysis:システム理論に基づく分析手法)であり、その有効性が認知され注目を集めるようになった。
システムが大規模化し複雑化する中で、STAMP/STPAの有効性として以下のような理由が挙げられている。
STAMPの提唱者であるマサチューセッツ工科大学(MIT) 教授のナンシー・レブソン(Nancy G. Leveson)氏が、2015年に筆者が所属するIPA(情報処理推進機構)に来訪した際に「STAMP/STPAが普及するには『ハンドブック』『ツール』『スタンダード』の3本柱が必要である」と語っていた。これら3本柱の整備状況は以下のようになっている。
日本では2016年にIPAが「はじめてのSTAMP」シリーズを発行し、2018年にはMITも「STPA Handbook」を公開した。
2018年にIPAがSTAMP向けモデリングツールである「STAMP Workbench」を開発し、オープンソースソフトウェアとして無償公開した。その後、日本以外でもさまざまなSTAMPツールが開発/公開されている。
3本柱のうち最後に残ったスタンダードについては、ここ数年で整備が進んでいる。欧州主導の国際規格ISO 26262(機能安全規格)2nd、ISO 21448(SOTIF)が正式発行され、いずれにおいてもSTAMP/STPA活用が推奨されている。米国主導の国際規格SAE J3187_202305(STPA推奨事例)、SAE J3307_202503(STPA規格)では規格として直接的にSTAMP/STPAの手順を定めている。
このように3本柱がそろったことが世界的なSTAMP/STPA普及の背景にあると考えられる。筆者がIPAのWebサイトのアクセス統計情報を調べたところ、IPAのSTAMP成果物は、2016年に公開を始めて以来8年が経過した2024年にダウンロード数が過去最多となり、さらに2025年9月時点では前年の同時期を上回るペースで増加している。このことからも、STAMP/STPAに対する国内ニーズの確かな高まりを感じている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
組み込み開発の記事ランキング
コーナーリンク