転換点を迎えるロボット市場の現状と今後の見通し、ロボット活用拡大のカギについて取り上げる本連載。第2回は、サービスロボットをテーマに、サービス業の特徴に触れながら、サービスロボットのポテンシャルと導入の拡大に向けた課題を解説する。
元来、製造業から活用が始まったロボットは、労働力不足と生産性向上の課題に直面する飲食業、オフィス、商業施設などのサービス業においても活用が広がっている。しかし、期待されるポテンシャルの大きさに比べ、いまだ用途は一部にとどまる。
そこで今回からは、サービス業の概況を踏まえながら、サービスロボット導入の現場から見えた現状と活用拡大のポイントについて前編と後編に分けて解説する。
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2022年の国内におけるサービス業の従業者数は約3011万人。これは、2022年の全従業者数約5570万人の54%に当たり、多くの方がサービス業に従事している(図1)。
また、分類を見ると「医療、福祉」が最も多く、次いで「飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業」「運輸業、郵便業」「生活関連サービス業、娯楽業」と続いており、サービス業が私たちの生活に大きく関わっていることが分かる。
一方で、2022年従業者1人当たり売り上げ(収入)金額を見ると、「飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業」では457万円、「生活関連サービス業、娯楽業」では1586万円と、自動化や効率化が進められてきた「製造業」の4031万円と比較すると大きな差がある。
これは製造設備などの固定資本への依存度が高い製造業のような「資本集約型産業」とは異なり、人の労働に頼る部分が多い「労働集約型産業」であることが一因と考えられる。
労働集約型産業は、事業活動を労働力に頼っており、売り上げに対する人件費の比率が高くなる産業であるため、売り上げを増やすためにはその分だけ労働者が必要となる。そして、利益を上げるためには労働者1人当たりの生産性を高める必要がある。
そんな中、労働力人口(従業者数とは異なる)は2022年の6902万人から2040年には6002万人に減少※1)すると言われている。労働集約型産業であるサービス業においては、売り上げを維持するための労働力確保が事業活動を継続する上で重要な論点となっており、視点を変えると、人に代わる労働力が求められているとも言える。
※1)労働政策研究・研修機構「2023 年度版 労働力需給の推計(速報)」より
このように、労働者1人当たりの生産性向上や労働力の代替という観点において、ロボットは注目されている。また、既存の従業員の負担を軽減し、時間余力の創出やモチベーションの強化により従業員満足度を上げる、さらに余力を接客時間に充てることで顧客満足度を上げる、といった効果を通じ、トップラインを向上させる上でも重要な論点である。
こうした事業活動の継続、売り上げ向上につながる施策として、近年業務用サービスロボットへの期待が高まっている。
サービスロボットは、工場や倉庫などで使われる産業用ロボットよりも多様であり、さまざまな分野で活用の広がりが見え始めている。2022年の世界販売台数は前年比48%増の約15万8000台※2)に上る。
※2)International Federation of Robotics (IFR), “Service Robots 2023”より
さまざまな分野/用途の中でも、輸送/物流領域は既に市場が形成された上で成長が続いており、自律移動型ロボット(AGV(無人搬送車)は含まない)の領域において、2022年の世界販売台数は前年比44%増の8万6000台※2)となっている。
一方で、配膳ロボットを含む接客用ロボットは2022年には前年比125%増の2万4500台※2)と大きく成長しており、業務用サービスロボットにおいては2番目に大きな市場となっている。
このように運搬用途のロボット活用が進む中、私たちの生活圏でのロボット活用も広がりを見せている。
例えば、配膳ロボットを活用する店舗は年々増え続けている。個別店舗での採用のみならず、大手飲食チェーンでは自社店舗の標準ツールとしての採用も増え、数千台規模の導入計画もある。また、オフィスビルや商業施設において、清掃ロボットや警備ロボットが業務を行っているシーンを目にする機会も増えた。さらに、大手商業施設やホテルなどは、施設内のさまざまな資材の運搬にロボットを活用するための実証実験に取り組んでいる。
こうした取り組みが足元で進められることで、今後は顧客満足度につながる直接的なサービス業務へのロボット活用が期待される。
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